病気やケガで働けなくなったときに給付される保険のひとつに、「就業不能保険」があります。しかし、働いている人には所定の要件を満たすと公的な手当の制度もあります。
就業不能保険はどんなときに必要なのか、公的制度を考慮しながら考えてみましょう。
働けなくなった時の保険、就業不能保険とは?
就業不能保険は、働いて家計を支えている人が病気やケガによって働けなくなり、収入が減ったり、無くなってしまったりしたときに備える保険です。病気やケガで働けなくなり、保険会社が定める所定の状態が続いたときに、月額10万円、15万円といった給付金を毎月受け取れるのが基本です。
病気やケガの治療にかかる医療費は、おもに医療保険や生命保険の医療特約で備えることができます。しかし仕事を休むことによる収入減までは、これらの保険ではカバーできない恐れがあります。このような経済的なリスクに備えるのが、就業不能保険です。
給付を受け取るには様々な条件が
ただし、就業不能保険で給付を受けるには、保険会社が定める「就業不能状態」が所定の期間を超えて続く必要があります。ただ体調不良で仕事を休んだだけでは、基本的にはすぐには受け取れません。
後述する健康保険の傷病手当金とも、受け取りの要件が異なりますので注意しましょう。
給付を受け取れる「就業不能状態」とは?
就業不能保険で定める働けない状態は「就業不能状態」といって、各保険会社が要件を定めています。おもに以下のような状態が該当します。
※詳細は保険会社などにより異なります。また、オプションなど一部の保障内容により、給付要件が異なる場合もあります。
なお、一部の就業不能保険では、うつ病など精神疾患を原因として就業不能状態になった場合には、給付の対象外としているものがあります。
給付を受け取れるまでの「支払対象外期間」とは?
上記のような就業不能状態に該当したとき、すぐに保険を受け取れるわけではない点にも注意が必要です。就業不能保険のほとんどは「支払対象外期間」という期間を設けているためです。
就業不能状態になったときから、60日や180日間などの支払対象外期間を経過してもその状態が継続して、初めて給付が開始されます。
病気やケガで働けない時の公的制度は?
ところで、病気やケガで働けなくなったときには、公的な制度で収入減に対応できることもあります。
会社員は最長1年6ヶ月間、傷病手当を受け取れる
会社員や公務員などで勤務先の健康保険に加入している場合には、「傷病手当金」という制度があります。
業務外の病気やケガで4日以上連続して仕事を休み、給料が減額されたり、支給されなかったときに、おおよその給与(標準報酬月額)の3分の2相当の手当が、休業4日目から、通算1年6ヶ月まで受け取れます。
ただし、自営業、フリーランス、日雇いなどで国民健康保険に加入している人や、主婦などで扶養に入っている人には、傷病手当金の制度はありません。
障害認定を受けると障害年金の対象に
国の定める障害状態に認定され、要件を満たすと、国民年金に加入している人は障害基礎年金、厚生年金に加入している人は障害厚生年金を受給できます。障害厚生年金の場合は、働いていたときの報酬額に応じて、また障害等級のレベルに応じた年金額が支給されます。
就業不能保険は必要?
これらをふまえて、民間の就業不能保険の必要性を考えてみましょう。貯蓄など家計の状況や、受けられる公的制度によって、考え方が変わってきます。
家族構成や家族の収入の状況
もしもご自身が働けなくなったときの経済的なダメージは、家族構成や収入の状況によって異なります。たとえば共働きでパートナーに十分な収入があれば、ご自身の収入が減っても、家計には大きな影響は及ばないかもしれません。
逆に、ご自身の収入で家族の生活を支えている場合は、働けなくなったときの経済的な心配は大きいでしょう。
貯蓄の状況
働けなくなったとき、特に重要なのが当面の生活費です。もしも働けなくなったときに備えて、6ヶ月から1年分の生活資金を貯蓄しておくと安心といわれています。
生活費のために取り崩せる貯蓄がどれくらいあるかを確認してみましょう。十分な貯蓄がないときや、貯蓄を取り崩したくないときなどには、就業不能保険が役立つかもしれません。
公的な保障制度の状況
傷病手当金や勤務先独自の休業補償の制度があるかどうか、どれくらい受け取れそうか、といった制度内容も確認してみましょう。企業によっては、休業したときにも所定の期間まではお給料の一部が支給されるところもあります。
一方で個人事業主や自営業の人などには、傷病手当金の制度がなく、休業したときの補償制度は手薄なおそれがあります。このように、利用できる制度と内容により就業不能保険の必要性が異なります。
公的制度と合わせたプランも選べる
こうしたご家庭の状況を整理したうえで、貯蓄や公的制度では対応できない、または金銭的にゆとりをもたせておきたい部分については、就業不能保険を活用するのもひとつの方法です。
就業不能保険の中には、公的制度をふまえてプランを選べるものもあります。たとえば「ハーフタイプ」などと呼ばれるプランは、所定の期間までは契約した給付金額の半額のみが支給されます。
半額支給期間は540日や1年6ヶ月間などとなっており、会社員や公務員などの傷病手当金の最長受取期間におおむね合うようになっています。
傷病手当金を受け取る間は就業不能保険の給付額が少ないものの、休業が長期にわたり傷病手当がなくなった場合には満額を受け取ることで、合理的に収入減少に備えられます。
就業不能保険は家計の状況や公的制度と合わせて検討を
病気やケガへの備えは、治療にかかる医療費や入院費のことだけではなく、仕事を休んで収入が減ってしまったときへの備えも大切です。その方法のひとつとして、就業不能保険を活用できます。
働き方や受けられる公的な補助、家計の状況に合わせて、加入の必要性や設定しておきたい保険金額などが異なります。
月々の保険料の負担とのバランスも考慮しながら検討してみましょう。
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執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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