犬を飼っていると、わが子の性格やしつけの状況によってはほかの人に激しく吠えてしまう、とびかかってしまう、場合によっては噛んでしまう心配を抱えている方もいるのではないでしょうか。
決してあってほしくはないことではありますが、万が一わが子がほかの人をケガさせてしまったら、飼い主はどのように責任を取らなければならないのでしょうか。
わが子が起こすかもしれない思わぬトラブルの対処法について知っておきましょう。
記事の目次
意外と多い!飼い犬が他人に噛みつく事件
環境省のまとめ※1によると、犬が起こした咬傷(噛んだ)事件は平成29年で4,316件あり、そのほとんどが飼い犬によるものだそうです。
事件の被害者のうち約9割が飼い主やその家族以外の人という結果もあり、愛犬がほかの人を傷つけてしまう事例が少なくないことがわかります。
犬が噛んだ事件の被害者
出典:環境省「犬による咬傷事故状況(全国計:昭和49年度~平成28年度)」より筆者作成
一番多いのは散歩の外出時
犬が噛んだ事件の発生場所をみると、公共の場所が2,530件、犬小屋の近くが1,268件です。また、事件が起きたときの犬の状況は、お散歩などリードでつないで運動している間が1,377件、犬小屋などにつながっていたときが785件です。
このことから、自宅にいるときよりも、お散歩中に公共の場所でほかの人を噛んでしまうことが約2倍も多いことがわかります。
これらの事件の多くは、被害者が通行中に起きています(2,104件)。配達・訪問の際(677件)、犬に手を出したとき(649件)なども多いものの、突発的に起きてしまうことが少なくないと考えられます。
飼い犬が人を噛んでしまったら保健所へ届け出を
では、実際に飼い犬がほかの人に噛みついてしまったら、飼い主はどうしたらよいのでしょうか?
飼い犬がほかの人を噛んでしまったら、まず飼い主はその旨を24時間以内に保健所に届け出ることになっています。
これは各自治体が飼い主に求めているルールです。ほかに、48時間以内に噛まれた人が狂犬病にかかっていないか、獣医師に検診してもらう義務もあります。
犬に噛まれた人は場合によっては命の危険に関わることがありますから、速やかに保健所に届け出ましょう。
飼い犬が人にケガをさせた時の飼い主の責任は?
まずは被害を受けた人の安全や健康を確保することが先決ですが、その後にはわが子が起こしてしまったトラブルに責任を取ることも求められます。
もし飼っている犬がほかの人を傷つけてしまったり、ものを壊してしまったら、飼い主は責任を負うことになります。刑法と民法ではそれぞれに、飼い犬が他の人を噛んだ場合の飼い主の責任について規定しています。それぞれについて責任を負うことになるのです。
刑法上の傷害罪に問われる
刑法上※2では、飼い犬がほかの人を噛んでけがをさせてしまったときには傷害罪などに問われることがあります。
たとえば飼い主の過失により、犬がほかの人にけがをさせてしまったときは過失傷害として30万円以下の罰金または科料、ほかの人を死亡させてしまったときは過失致死として50万円以下の罰金が科せられます。
さらに、飼い主が注意を怠って、犬が起こした死傷事件などを防げなかったときは業務上過失致死傷等として5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金を科せられることになっています。
また、犬がほかの人のものを壊したときなども、器物損壊等として3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料に科されます。
民法上の賠償責任も負うことに
刑法上の罰則とは別に、民法でも責任を問われます。
民法では、ペットの飼い主はしっかりと注意を払ってペットを飼う(管理する)ことが求められていて、もしペットがほかの人に危害を加えてしまったときは賠償する責任を負うと決められています。
したがって、ペットの犬がほかの人をけがさせてしまったとき、先ほどの刑法とは別に、飼い主が被害者に対して治療費や休業補償、慰謝料などの民法上の賠償金を支払う義務があります。
民法では、法律上であらかじめ賠償金の金額が定められていません。示談で決めることもあれば、裁判で決めることもあります。
金額の規模は数万円から数千万円までケースバイケースですが、被害者のけがの程度によっては賠償金が高額になることもあります。実際に飼い主に数千万円規模の賠償金の支払いを命ぜられた事例もあります。
東京地裁(平成25.10.10)
- 被害者に5回分の通院費と慰謝料で31万円、管理会社に対して、被害者が退去してしまった空き部屋の家賃9ヶ月分と弁護士費用を合わせて1,725万円の支払。
札幌地裁(平成27.1.28)
- 慰謝料6,300万円の支払。
考えたくはないことですが、実際に数千万円もの高額な賠償金の支払い命令を受けたら、簡単には対応できない人がほとんどではないでしょうか。万が一のアクシデントに対応するにはどうしたらいいのでしょうか?
飼い犬が人にケガをさせたときに使える保険
数千万円もの高額な賠償責任を負った場合に備える方法のひとつが保険です。「個人賠償責任保険」というもので、日常生活上で損害賠償責任に問われてしまったときに、賠償すべき金額が保険からおりるものです。
保険会社によって、「日常生活賠償責任保険」という場合もあります。
個人賠償責任保険の加入方法
個人賠償責任保険は、現在単体で加入できるものは少なく、別の保険に特約でついている場合がほとんどです。
ペット保険、火災保険、自動車保険、傷害保険、自転車保険などの多くには、特約で賠償責任の補償がついています。すでに加入している保険があれば、特約を確認してみましょう。
個人賠償責任保険の対象になるのは、保険の記名被保険者とその配偶者、同居の親族などです。
ただし、被害者が飼い主の同居の親族だった場合には対象外です。飼い犬が噛んでけがをさせてしまった場合の賠償責任の対象となるのは、あくまで第三者ということは覚えておきましょう。
個人賠償責任保険の補償額を確認
複数の個人賠償責任保険に加入しているときは、それらの補償を合わせて使うことができます。ただし補償されるのは1事故で支払うべき損害賠償額の総額分までです。
たとえば自動車保険の特約で5,000万円、火災保険の特約で2,000万円の個人賠償責任補償がついているときには、最大7,000万円の損害賠償まで対応できます。
ただし実際に支払うべき賠償金が6,000万円なら、自動車保険から5,000万円、火災保険から1,000万円のように、実際の賠償金額までしか保険はおりません。
わが子が起こすかもしれないアクシデントに備えるときには、新たに個人賠償責任保険を検討する前に、すでに契約している保険の最高補償額を合計して、いざというときに対応できるかどうかを考えてみましょう。
すると、わざわざ保険料を支払って新たに契約しなくても十分かもしれません。
個人賠償責任保険には示談交渉サービスがついている保険もある
なお、個人賠償責任保険には、賠償事故が起こったときに飼い主に代わって被害者と交渉してくれる示談交渉サービスがついていることがあります。
個人賠償責任保険を確認するときには、アクシデントの解決のサポートになるサービスがついているかもチェックしておきましょう。
賠償金を支払えるかどうかだけでなく、もしもわが子が他の人にけがをさせてしまったときの対応でも、保険を使えると安心ではないでしょうか。
万が一に備えて、日頃からのしつけや対策とともに保険の確認を
大切な家族であるワンちゃんがほかの人を傷つけてしまったら、飼い主として精神的にも経済的にも大きな負担になる可能性があります。
犬の散歩をするときは必ずリードにつなぎ、犬のとっさの行動にも対応できるようにリードは短めに持つ、自宅にいるときにも急な来客に驚いて噛んでしまうことがないようリードにつないでおく、玄関に不意に出てこないように柵をつけるなどの環境を整備しておくことなど、日ごろからしつけや、思わぬ行動を起こしたときの対策、環境整備をしておくとよいですね。
金銭的な責任に保険で対応できると、アクシデントの解決に向けて精神的な負担を軽減することにもなるでしょう。まずはすでに契約している保険の中に対応できるものがあるかを確認しておくと安心ですね。
※1 出典:環境省「犬による咬傷事故状況(全国計:昭和49年度~平成28年度)」
※2 出典:e-Govウェブサイト「刑法」
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。