認知症の親・家族を介護していると、徘徊してしまって思わぬ交通事故にあったり、電車の事故を起こしてしまう心配を感じることがあるのではないでしょうか。
もしも認知症の家族が事故を起こしてしまったら、被害者から損害賠償を請求されるのでしょうか?
また救済措置はないのでしょうか?認知症での賠償のリスクと、対応できる保険を解説します。
記事の目次
認知症の人が事故を起こしたら、賠償責任を負うのは誰?
高齢になると、認知機能の衰えが影響して事故につながるケースもあります。
そのときに被害者から賠償責任を問われても、責任能力がないこともあるでしょう。そのようなときには、だれが賠償責任を負うのでしょうか?
本人に責任能力がなければ監督義務者が責任を負う
賠償について定めている民法では、認知症などによって自分が起こしたことやその責任を理解できない人は、賠償責任を負わないこととされています。
その場合、生じてしまった損害への賠償責任は、認知症の人の家族など法定の監督義務者や、介護にあたっている人に問われることがあります。
ただし、監督する義務のあった人が事故を起こさないように努めていた、それでも避けられない事故だった場合には賠償責任を負わないこととされています。
【事例】認知症の人による鉄道事故で、家族が賠償責任を負わなかったケース
しかし実際に起きた個別の事故でその判断をするのは難しく、賠償責任の有無は一概に決まらないことがあります。
認知症の人の家族の賠償責任をめぐる裁判事例もあります。
たとえば2007年に、認知症を患っていた91歳の男性が鉄道の線路に立ち入り、電車と接触して亡くなった事故では、鉄道会社から家族へ、列車の遅延にかかわる損害賠償が請求されました。
しかし裁判では男性の85歳の妻や介護の補助をしていた家族の状況を鑑みて、賠償責任を負わないとする判決がおりました※1。
本人の責任能力と家族が監督義務を果たしていたかが判断のポイント
事故のリスクは、クルマの運転でもありえます。もしも認知症の人が運転していたクルマが事故を起こしたときも、原則は民法のルールに沿います。
認知症の本人に責任能力がなければ、監督義務を負う家族が賠償しなければなりませんが、本人にクルマを運転できないように普段から管理していたなど、家族が十分に義務を果たしていたか、またそれでも避けられない事故だったか、など総合して賠償責任を負うかが判断されます。
認知症の親が事故を起こしたときに対応できる保険とは?
このように、事故を起こした認知症の本人に責任能力がなければ、状況によっては家族に賠償責任を問われる場合があります。
そんなリスクに、自動車保険や火災保険などで対応できることがあります。
車での事故は自動車保険で対応
任意に契約する自動車保険では、「対人賠償責任保険」「対物賠償責任保険」がついており、自動車事故で賠償責任を負った場合、損害を受けた人へ賠償金を払うときに保険がおります。
おもにクルマを運転する「記名被保険者」のほかに、その家族が運転していた時の事故も補償対象になります(家族の範囲は記名被保険者の配偶者や同居の親族、別居の未婚の子など決められています。)
また、運転者が認知症などで責任能力がない場合には、監督義務のある親族も保険の対象になります。
つまり認知症の親が事故を起こして、家族に賠償責任を問われても保険がおりるのです。
日常生活での事故は個人賠償責任保険で対応
火災保険や自動車保険、傷害保険などに加入していると、「個人賠償責任補償」が特約でついていることがあります。
自転車事故など、日常生活全般で起こしてしまった事故で賠償責任を負ったときに保険がおります。
個人賠償責任保険も自動車保険と同じように、記名被保険者とその家族が保険の対象で、このうち本人が認知症などで責任能力がない場合にはその親族も対象になります。
同様の補償は、共済、自転車保険、クレジットカードの付帯サービスなどにもついていることがあります。すでに入っている保険に個人賠償責任補償がついているか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
自治体で申し込める高齢者向けの認知症保険も
お住まいの地域によっては、認知症を患っている高齢者向けの個人賠償責任保険に入れるところがあります。
保険の内容は各地域が設定しており、おもに、日常生活上での賠償責任を補償する「個人賠償責任保険」と、これに加えてケガで入院したときの給付や、見舞金が支給される補償もセットされているところがあります。
65歳以上で要介護認定を受けている、認知症により徘徊をするなどの要件に該当する人が地域の窓口(地域包括支援センターなど)で申し込むことができ、保険料の負担はゼロか、数百円程度が一般的です。
加入している保険、地域の保険で認知症の家族のアクシデントに備えて
認知症の人の介護は家族にとって、心身ともに大きな負担がかかります。
もしもの事故で賠償を負ってしまったら、経済的にも大きな負担になるでしょう。すでに入っている保険や地域の保険を活用して、万が一への安心を確保できるといいですね。
※1 出典:裁判所「最高裁判所判例集」
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。