働けなくなった場合の収入減を補う!公的な制度に上乗せする保険
会社員や公務員で健康保険に加入していれば、「傷病手当金」という公的な支援制度があります。
休業が4日以上連続したときに、お給料のおよそ3分の2にあたる手当が4日目から日割りで給付されるものです。たとえば月収30万円の人なら、1か月当たりおよそ20万円を受け取れます。
ただし、傷病手当金を受け取れるのは最長1年6カ月に限られます。また、会社員などの扶養に入っている人は支給の対象外です。さらに国民健康保険にはそもそも傷病手当金の制度がありません。
自営業やフリーランス、ご自身で健康保険に加入していないパートの人などは、仕事を休んだらその分収入が減ってしまうわけです。
そこで、公的な制度では足りない収入減を補う方法のひとつが、所得補償保険や就業不能保険です。
生活費をサポートする「所得補償保険」「就業不能保険」とは?
働けなくなったときの保険、所得補償保険と就業不能保険はどちらも、病気やケガで長期間働けなくなった場合の「生活費」をサポートする保険です。
医療保険は、入院をしたら1日あたり何万円、手術をしたらその内容に応じて何万円のように、入院費や手術費などの治療費に充てることを想定して給付金が支払われますが、働けなくなったときの保険は、病気やケガが理由であることは問われるものの、必ずしも入院中でなくても受け取れます。
「働けない状態」とみなされると、毎月お給料のように一定額の入院日数や手術の有無とは関係なく保険金や給付金が支払われます。お給料のように毎月一定額を受け取るタイプが多いため、仕事を休んで会社からお給料が出なくなってしまったときに、生活費に充てられます。
「所得補償保険」と「就業不能保険」のしくみ
所得補償保険と就業不能保険それぞれのしくみを知っておきましょう。
所得補償保険
病気やケガで働けなくなって「所得」が減ってしまったときに、その減少を保険から補います。受け取る保険金額は契約時に定め、月額10万円、15万円など月単位で支払われます。
所得補償保険のしくみ
※一部、条件が異なる商品もあります。
出典:筆者作成
就業不能保険
病気やケガで働けなくなったときに、給付金が支払われます。受け取る保険金額は契約時に定め、月額10万円、15万円など月単位で支払われます。
就業不能保険のしくみ
※一部、条件が異なる商品もあります。
出典:筆者作成
「所得補償保険」と「就業不能保険」の違い5つ
基本的なしくみは、所得補償保険と就業不能保険でとてもよく似ています。しかし、細かなしくみが異なります。おもな違いは次の5点です。
所得補償保険と就業不能保険の比較
出典:筆者作成
1.保険金額の設定方法
所得補償保険の場合:契約前12カ月の所得の50~70%が上限
所得補償保険で設定する保険金額は、補償の対象になる被保険者の所得に応じて上限が決められています。保険に契約する前12ヶ月の収入の平均をもとに、その50~70%が上限になるのが一般的です。
たとえば、1カ月の平均所得が40万円で70%が上限の場合、保険金として設定できるのは月額28万円以下になります。(保険会社によって、上限の設定には違いがあります。)
就業不能保険の場合:契約前の年収に応じた上限額が設定される
就業不能保険も、保障の対象になる被保険者の年収に応じて上限が決められる点は同じですが、年収に対して何%という決め方ではなく、年収区分に応じた保険金額の上限が定められています。
たとえば年収300万円台なら保険の給付金は月額20万円まで、年収400万円台なら月額25万円までなどと段階的に決まっています。(保険会社によって、上限の設定には違いがあります。また、一部の所得補償保険でもこのような上限設定のところもあります。)
2.保険料の決まり方
所得補償保険の場合:年齢、職業、保険金額、保険期間により決まる
所得補償保険では、契約前の平均所得額をもとに決めた保険金に対して、年齢、職業の区分に応じて支払う保険料が決まります。同じ保険金額でも、年齢が高いほど、また、働けなくなるリスクが高い職業ほど、支払う保険料は高くなります。職業上のリスクは、事務職や危険物の取扱がない従業員や役員などは低く、金属、電気、建設機械、危険物の取扱のある技術者や工員などは高いとみなされます。男女での保険料の違いはありません。
原則として仕事をしている人のみ契約できますが、特約をつけることで家事や育児をしている人、主婦が契約できるところもあります。
就業不能保険の場合:年齢、性別、給付金額、保険期間により決まる
就業不能保険も、原則として仕事をしている人のみ契約できます。パートやアルバイト、主婦の人は、安定した収入があれば契約できます(年収の下限を設けているところもあります)。しかし原則として、職業によって支払う保険料の違いはありません。同じ保険金額(給付金月額)なら、年齢、性別によって月々に支払う保険料が変わります。一般的には年齢が高くなるほど保険料も高くなります。
3.保険期間
所得補償保険の場合:1年、5年が一般的
所得補償保険の保険期間は1年や5年が一般的で、所定の年齢までは自動更新できます。更新時に年齢が上がれば、支払う保険料も上がることがあります。
就業不能保険の場合:55歳~70歳前後のうち5年きざみで設定
就業不能保険の保険期間は60歳や65歳など、年齢をもとに決めることが多く、一度契約したらその年齢まで月々の保険料は変わりません。
4.保険給付金の受け取り方
所得補償保険の場合:働けない限り、かつ最長2年が一般的
所得補償保険では、契約後にもし病気やケガをして、働けない状態になったら保険金を受け取りますが、保険会社によってはその際に改めて、直近12カ月の所得が確認されます。働けなくなる直前12カ月の、実際の所得の平均※が、契約したときに設定した保険金額よりも少なければ、実際の所得の平均額のみが支払われます。
つまり、働ける状態で実際に稼げる収入以上に、保険金を受け取ることはできません。
また、保険金を受け取っている間に保険期間が終了してしまうとき、多くの場合は最長2年間など、保険金を受け取る期間に限度が設けられています。一部商品では60歳など、受け取りの限度が長く設定できるものもあります。
※年間収入額から、働けなくなったことによりかからなくなった支出(交通費や接待交際費など)を除いた金額を12カ月で割ったもの
就業不能保険の場合:働けない限り、かつ保険期間中が一般的
就業不能保険も、契約後に病気やケガをして、働けない状態になったら給付金を受け取ります。受け取る時点での収入が契約した当初と変わっていたり、契約後に退職したりしても、実際の収入を確認されることはありません。ここが所得補償保険と大きく異なります。契約したときにあらかじめ設定した給付金額を受け取ります。働けない状態が続いていれば、原則として保険期間が終わるまで受け取り続けることができます。一部商品には、回復して働けるようになっても、5年間などあらかじめ決めた期間は受け取れるものもあります。
したがって、働ける状態で実際に稼げる収入以上の給付金を受け取る可能性もあります。
5.取扱保険会社
所得補償保険の場合:損害保険会社
所得補償保険は、自動車保険や火災保険を扱う損害保険会社が扱っています。これに対して就業不能保険は、死亡保険や医療保険を扱う生命保険会社が扱っています。
所得補償保険は、職業や年齢で区分した働けなくなるリスクの大きさに応じて支払う保険料が決まり、受け取る保険金は実際の収入の減少額が基本になるのが特徴です。この考え方は、車種や運転者の年齢などから事故リスクの大きさを区分して支払う保険料が決まり、事故が起きたときには実際の損害額を上限に保険金がおりる自動車保険のしくみに似ています。このため、所得補償保険は自動車保険や火災保険を取り扱う損害保険会社で扱っているのです。
就業不能保険の場合:生命保険会社
就業不能保険は、年齢や性別による病気やケガの確率をもとに支払う保険料が決まり、実際に働けなくなったときの収入がいくらであるかに関わらず、契約当初に設定した給付金を受け取ります。これは、死亡時には契約時に設定した保険金額がおりる死亡保険に似ています。
「所得補償保険」と「就業不能保険」のどちらがよい?
このように、所得補償保険と就業不能保険は同じく働けなくなったときに備える保険ですが、細かなしくみが異なります。どのようにリスクに備えたいか? というニーズによってどちらが適しているかを検討するとよいでしょう。
たとえば、目先の1年に生活費がかかる、子どもの学費などお金のかかる予定があるようなときに、短期間だけ収入減少を防ぎたい場合は、保険期間が1年や5年とされる所得補償保険が向いているでしょう。翌年になって継続したいときには更新することもできます。
逆に、働いている間はずっと収入減少のリスクに備えたい場合は、就業不能保険も便利でしょう。60歳、65歳など現役の時期に合わせて保険期間を設定でき、その間は支払う保険料が変わりません。
あるいは、いざ保険を受け取るときのニーズからも検討できます。受取額がはじめから決まっているのが良ければ就業不能保険が向いています。毎年の収入の変動が大きく、将来に万が一働けなくなったとき、その直前の時点でどれくらい収入があるか見通しがつきづらいときには安心かもしれません。一方で、実際の収入減の分だけ保険を受け取るのが効率的と考えれば、所得補償保険が向いているでしょう。
ご自身やご家族の働き方や家計の見通しなどに応じて検討してはいかがでしょうか。
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執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。