親が高齢になってきたとき、将来の相続が心配になってくることはありませんか?親がどれくらい財産を持っているのかわからない場合や、相続税がかかりそうな資産がある場合には、子ども世代が相続手続きをするときに大きな負担になることもあります。
そんなときに備えてできる相続対策のひとつに、保険の活用があります。生命保険でできる相続対策について、FPが解説します。
生命保険で相続対策ができる
相続対策とは、将来に発生する相続に備えて、あらかじめ保有している資産を整理したり、財産を誰に引き継がせるかを検討し、遺言書を作成したりすることです。相続税がかかるかどうかを試算し、課税される可能性がある場合には負担を軽減したり、納税資金を準備したりすることもあります。
このようにひとくちに「相続対策」といっても、詳しくみるとさまざまな対応にわかれます。そのなかで必要な対策は各家庭や資産の状況によって千差万別ですが、一般的によく活用される方法のひとつが、生命保険の活用です。
生命保険を使うことで、財産を持っている人が亡くなったときに家族が行う相続の手続きをスムーズにしたり、相続税の負担を軽減する効果を期待できます。
生命保険を活用した相続対策の効果とは?
では、生命保険を使うとどのような相続対策ができるのかを詳しく確認してみましょう。おもに、次の4点が考えられます。
1.相続税の対象となる資産を減らすことができる
もし、親など資産を持っている人が亡くなったら相続税がかかるかもしれないと心配なときに、課税される相続税を軽減するために、生命保険を活用できます。
生命保険から受け取る死亡保険金は相続税の課税対象になりますが、法定相続人が受け取る場合には「500万円×法定相続人の数」を上限に非課税になるためです。かりに法定相続人が3人なら、1,500万円までは相続税がかからないのです。
つまり現金や預金の遺産であれば、額面の全額がそのまま相続税の課税対象になりますが、生命保険金であれば一部が非課税になります。
このしくみを活用して、高額な現預金を持っている人が、そのお金を使って生前に生命保険に加入しておくと、将来に発生する相続税を減らす効果を期待できます。
2.相続人が支払う相続税資金を準備できる
相続税の納税は、亡くなった人の家族など相続人が行います。遺産を使って納税できればいいですが、亡くなったときに残された遺産に現金や預金が少なければ、遺産からは準備できないことがあります。すると家族が自分のお金で納税せざるを得ませんが、納税額が高額なら家族にとって負担になってしまいます。
そこで、親があらかじめ生命保険に加入しておくことで、将来の相続税納税に必要な資金を確保できます。保険の被保険者を親に、受取人を子どもなど後に相続人になる予定の人に指定しておけば、親が亡くなったときには保険金が子どもに直接支払われるためです。
3.相続人が現金をすぐに受け取ることができる
また、遺産の中に、納税資金として使える現金や預金が十分にあったとしても、相続が発生した後の状況によってはすぐに使えないこともあります。
遺産は、家族など相続人同士で話し合って分割するまで自由に使えないためです。亡くなった人の預金は、遺産分割が終了するまで使うことはできないのです。預金口座は死亡したことを連絡するとすぐに凍結され、家族でも一部の例外を除いて引き出すことはできません。
凍結を解除してもらうためには金融機関の窓口で所定の手続きが必要ですが、誰がどの遺産を引き継ぐかを記載した遺産分割協議書の提示が求められるなど、引き出しには遺産分割の完了が条件になるのが原則です。
また、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書といった本人確認書類も必要で、準備には時間がかかります。
しかし相続税の納税期限は、被相続人が亡くなってから10ヶ月※です。もし、期限までに遺産分割がまとまっていなければ、預金を引き出して相続税の納税にあてることができません。
これに対して生命保険の死亡保険金は、被保険者が亡くなってから保険会社に請求手続きをすれば、遺産分割が完了していなくても、契約時に指定した受取人に支払われます。その後は受取人固有の財産になりますので、そのお金を使って相続税を納税することができます。
また、受取りの手続きは受取人本人がしますので、他の相続人の本人確認書類を用意したり、同意を取り付けたりする必要もありません。
※厳密には、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内
4.受取人を事前に指定することで「争族」を軽減できる
生命保険には、遺産分割でのメリットも期待できます。契約時に指定した受取人に保険金が支払われるので、誰にいくらのお金を渡すか、あらかじめ明確にしておけるためです。
資産を持っている人が生命保険に契約して、お金を渡したい人を受取人に設定しておくことで、その人に確実にお金を引き継げるのです。
親などが亡くなって、いざ家族が遺産を分けようとすると意見の違いからもめてしまうことがありますが、そのような「相続」ならぬ「争族」を防げるかもしれません。
これは、相続税がかからないケースでも重要です。相続税には、先述の生命保険の非課税(500万円×法定相続人の数)とは別に「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があり、遺産の課税価格がこの範囲内なら、相続税の納税は生じません。
しかし相続税はかからなくても、亡くなった人が残した遺産をどのように引き継ぐかは、基本的には家族などの相続人同士で話し合って決めなければなりません。
遺言書があればその内容に沿って分けることもできますが、なければ相続人同士でどのように分けるかをゼロから決める必要があります。また、相続人全員の合意があれば遺言書に従わなくても法的な問題はないため、遺言書があってもその通りに分割するかどうかの協議は必要です。いずれにしても、もし話し合いがうまくまとまらずもめごとになると、遺産が誰にも引き継がれないままになってしまいます。
これに対して生命保険は、遺言書がなくても、また遺産分割の話し合いがまとまっていなくても、指定した人にお金を引き継ぐことができます。
相続対策に使える生命保険とは?
このように、生命保険を活用して、相続時の負担やもめごとに備えて対策することができます。具体的にはどのような生命保険を使えばよいのでしょうか。
一般的に相続対策に用いられるのは終身保険や養老保険などです。特に多いのは一時払タイプの終身保険です。保険料を契約時に一括で払い、保障が一生涯にわたって続く死亡保険です。加入する時点でまとまったお金を払うので、万一相続が発生したら高額な現金・預金が遺産として残るようなケースで、相続税の対象になる資産を減らしておくことができます。
生命保険の多くは加入時に健康に関する告知が必要ですが、一時払タイプの終身保険など相続対策として用いられる生命保険には告知が不要、または審査基準が緩やかなものもあります。高齢の親が相続対策を考えたときには、すでに持病を抱えているケースが少なくありませんが、そのような場合でも生命保険に加入できることがあります。
契約時の受取人、被保険者の設定が重要
上記の相続対策を行うときには、保険の契約者および被保険者を、親など相続対策をしたい人(将来の被相続人)に設定します。そして、受取人を子どもなど、資産を引き継がせたい人に設定します。
契約者、被保険者、受取人の設定方法によっては、保険金を受け取ったときに所得税や贈与税の対象になることがあります。このような形での相続対策も一部にありますが、個別のケースによって、適した相続対策の方法や生命保険の加入方法が異なります。
検討する際には税理士など、相続や税務に詳しい専門家に相談するとよいでしょう。
いざというときに備えて、計画的に相続対策の検討を
相続というと、死亡したときのことを考えなければならず、本人も家族もなかなか対策を始めにくいと思うかもしれません。しかし遺産が多くても、少なくても、相続が発生したときに備えて準備をしておくことは大切です。
生命保険の活用も含め、計画的に相続対策を始めておくと安心です。
※1 出典: 国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」
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執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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