生命保険では一般的に、遺された家族の生活保障やお葬式代に備えられます。では、葬儀費用に備えるには、生命保険は必要なのでしょうか?
葬儀費用に対応できる生命保険や葬儀保険について解説します。
葬儀に備えて生命保険は必要?
葬儀代は、葬儀の規模や形式によってかかる費用は異なりますが、死亡後にすぐにまとまったお金が必要になります。
葬儀費用に備える方法には、生命保険のほかに預貯金や互助会などがあります。
では、預貯金が十分にある場合や互助会に加入している場合など、費用への準備ができている場合には、葬儀に備えて保険は不要なのでしょうか?
生命保険で備えるメリット
生命保険を使って葬儀費用に備えることで、お葬式代としてかかる金額を事前に計画的に準備することができます。
また、万が一の際にスムーズにお葬式代のお金を確保できるメリットもあります。
葬儀費用を着実に準備できる
葬儀には一般的に、数十万円から数百万円と、まとまったお金がかかります。
家族葬、一日葬、一般葬といった葬儀の規模によって差が生じます。また、参列者の人数が多い、飲食や装花のグレードを上げるといった場合に費用が高くなることもあります。
どのようなお葬式にしたいかを生前に本人や家族で整理し、予算のイメージを付けておくことが大切です。
しかし、家族で相談したり、料金相場を調べたりする機会がないと、お葬式のためのお金を計画的に準備するのが難しいかもしれません。
生命保険で葬儀費用に備える場合には、保険への契約が、葬儀のお金について意識するきっかけになることがあります。
早いうちから計画的に葬儀費用を準備するしくみができそうです。
葬儀費用の支払いを速やかに進められる
葬儀は亡くなってから短期間で執り行うのが一般的ですので、費用を速やかに準備する必要があります。
本人の預貯金から引き出す「預貯金の仮払い制度」などを利用する方法もありますが、引き出せる金額に上限がある、金融機関での手続きに所定の時間がかかるといった制約があります。
また、生命保険のうち「葬儀保険」と呼ばれる保険の一部には、葬儀を執り行う葬儀会社へ保険金を直接支払ってもらうサービスを利用できるものがあります。
いざお葬式を執り行う際に、葬儀費用を保険で工面できるだけでなく、急な出費でも速やかに支払いを済ませられるメリットも期待できます。
葬儀費用に関する相続トラブルを防ぐ
また、遺族が葬儀費用を負担する方法もありますが、誰がいくら立て替えるかをめぐって遺族間で意見の整理が難しくなる、遺産相続の際に精算する手間がかかるなどのリスクも考えられます。
生命保険の保険金を葬儀費用に充てる旨を事前に決めておくと、亡くなった後にこうしたトラブルを防げるかもしれません。
また、生命保険の死亡保険金は、契約時に指定した受取人に支払われます。
保険金の受取人となる家族などに、葬儀の手配や費用の支払いを託すこともできそうです。
葬儀費用に対応できる生命保険
生命保険のうち、死亡時に保険金が支払われる死亡保険は、葬儀費用への備えとして活用できます。
死亡保険はいくつかの種類に分けられ、おもに以下が挙げられます。
定期保険
10年・20年など、一定期間に限り保障を受けられる、掛け捨て型の生命保険です。
保険期間中に被保険者が死亡した場合に、死亡保険金が支払われます。
家族への生活保障などのために数千万円単位の保険金額で契約することもありますが、葬儀費用中心に備える場合には、100万円や300万円など数百万円程度で契約できるものもあります。
保険料は掛け捨てで、保険期間の満了時に被保険者が生存していた場合には、払い込んだ保険料は戻ってきません。
一方で、後述の終身保険に比べて、年齢・性別・保険金額などの契約条件が同じであれば、保険料が割安な傾向があります。
終身保険
更新がなく、保障が一生涯続く生命保険です。契約後は時期にかかわらず、被保険者が亡くなった際に死亡保険金が支払われます。
葬儀費用を中心とした備えとして、保険金額を100万円前後から設定できるものもあります。
終身保険は掛け捨て型ではなく、貯蓄性のある保険です。払い込んだ保険料の一部は将来の保険金支払いに備えて積み立てられます。
このしくみを活かして、現金を多く保有する人が将来の遺産相続に備えて現金資産を減らしておく、受取人を子どもなどに設定し資産を引き継げるようにしておくなど、生前の相続税対策として活用されることもあります(生命保険には「500万円×法定相続人数」という相続税の非課税限度額があり、相続人が死亡保険金を受け取った場合には相続税が課税されません)。
また、終身保険を生前に途中解約した場合には、解約返戻金を受け取れることがあります。
亡くなった後の葬儀のためではなく、本人の老後資金や終活に充てることも可能です。
保険料は、年齢・性別・保険金額などの契約条件が同じ掛け捨ての定期保険に比べると割高です。
葬儀保険
死亡保険のうち、特に葬儀費用に絞って備えるための保険として、「葬儀保険」という名称で提供されているものもあります。
定期保険、終身保険と同様に被保険者が亡くなった際に死亡保険金が支払われます。保険期間が1年などの定期型で、掛け捨てタイプのものが中心です。
葬儀費用に特化して備えられるように、保険金額を30万円前後など少額から設定できる、84歳や89歳など高齢期から加入できるといった特徴があるものが多くなっています。
また、葬儀事業者への保険金の直接支払いサービスや、提携事業者の葬儀費用の割引サービスなど、お葬式のお金にかかわるサービスを受けられるものもあります。
葬儀費用への準備状況を確認して、生命保険の必要性を検討
生命保険は、決まった金額を準備できる、万が一の時には速やかに葬儀費用の支払いを済ませられる、葬儀費用として準備することで葬儀費用にまつわるトラブルを防ぐことができる、といったメリットがあります。
ただし、高齢になると持病などで保険の加入が難しかったり、保険料の負担が大きくなることも考えられます。
葬儀を行う際にかかるお金には、預貯金、互助会、生命保険など多様な方法で備えることができます。
また、お葬式の費用は葬儀の形によって大きく異なります。どのようなお葬式がしたいかを本人や家族で確認しておくことで、葬儀に必要なお金のイメージができ、無理のない準備ができるのではないでしょうか。
葬儀費用に向けた生命保険の必要性を検討する際に、考えてみましょう。
-
執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
気になった記事をシェアしよう!