亡くなった際に故人をお見送りするお葬式は、式の形式や規模などによってかかる費用が異なります。
では、葬儀費用はいくらくらいかかるものなのでしょうか?また、葬儀費用に備えるにはどのような方法があるのでしょうか?
葬儀費用の料金や準備方法について解説します。
葬儀費用はいくらかかる?
経済産業省※のデータをみると、全国の葬儀事業者が取り扱った葬儀の費用は1件あたり50万円未満から500万円以上のものまで幅広くなっています。
このうち特に多いのが、50万円~200万円の葬儀です。
葬儀費用の規模別 葬儀会社の取扱件数割合
葬儀会社の年間葬儀取扱件数(1,009,406件)に占める費用規模別の取扱件数割合
経済産業省「2020年経済構造実態調査報告書」より筆者作成
ご本人の希望にもよりますが、50万円~200万円を目安に用意しておくと、標準的なお葬式をして送り出してあげられそうです。
お葬式の費用には、葬儀や通夜の式典を執り行う費用のほか、花代、会葬者への飲食費、お香典返し、寺院への費用などが含まれることもあります。
また、家族葬、一日葬、一般葬といった式典の規模や弔問客の人数などによって、費用の規模感が変わることもあります。
葬儀費用に備えるには?
葬儀費用に備える方法には、預貯金、互助会、生命保険などがあります。
本人や家族の資産や家計などの状況に合わせて検討しましょう。
預貯金
亡くなった人の預貯金を葬儀費用に充てる方法です。
預金口座は、名義人が亡くなるとその時点で遺産となり、原則として遺産分割が完了するまでは家族でも引き出すことはできません。
しかし、葬儀費用のために必要なときには所定の手続きをすることで、一定額まで引き出せることがあります。
引き出せる金額は、「預貯金の仮払い(払い戻し)制度」というしくみを使う場合で「相続開始時の預貯金残高×1/3×法定相続分(その相続人の法定取り分)」を上限に、かつ、1つの金融機関ごとに150万円までです。
この範囲内であれば、相続人の間で遺産分割がまとまっていなくても、預金を出金することができます。
ただし、引き出しの手続きには金融機関所定の請求書のほか、戸籍謄本や印鑑証明が必要で、出金までに時間がかかるケースもあるようです。
または、家族など相続人の預貯金を使って葬儀費用を負担する方法もあります。
しかしこの場合、多くは相続人が立替をしてその後の遺産分割の際に精算をしたり、相続人間で負担割合を協議したりすることになりますので、遺産分割が煩雑になる可能性もあります。
生命保険
生命保険のうち、被保険者が亡くなったときに保険金が支払われる死亡保険は、葬儀費用に充てることができます。
掛け捨て型の定期保険、収入保障保険、葬儀保険や、貯蓄性のある終身保険や養老保険などを活用できます。
一部には「クイック支払」といって、最短で請求手続きの当日や翌営業日に保険金が入金されるサービスや、提携先の葬儀事業者へ保険金を直接支払ってもらうサービスを利用できる保険もあります。
生前に本人が契約者・被保険者、家族を受取人に指定して契約しておくと、本人が保険料を負担し、死亡保険金を家族へ受け渡すことが可能です。
支払われた保険金は預貯金と違い、受取人固有の財産になりますので、遺産分割が完了する前でも、葬儀費用などに自由に充てることができます。
生命保険に契約する際に本人や家族で話し合って、保険金を葬儀費用に充てることや、受取人になる人が葬儀費用の支払い手続きを担当する旨などを決めておくと、スムーズにお葬式を営むことができるかもしれません。
死亡保険金は預貯金と同じように相続税の課税対象になりますが、「500万円×法定相続人の数」までは非課税です(法定相続人とは、民法で定められた、被相続人の財産を相続できる人)。
葬儀費用そのものとは直接関係ないことですが、相続税の課税を抑えられるメリットもあります。
互助会
互助会は、将来の冠婚葬祭のためにお金を積み立てるサービスで、葬儀のために利用できるものもあります。
加入者は毎月1,000円や5,000円などの一定額を決まった回数払い込みます。積み立てたお金の一部はのちの葬儀費用に充てられ、葬儀を執り行う際の出費を抑えられる仕組みになっています。
互助会の会員向けに、葬儀料金が割引されるところもあるようです。
公的制度からお金は受け取れる?
葬儀費用のうち埋葬料は、公的な制度による補助があります。
健康保険
健康保険に加入していた人などが亡くなり、葬儀を行った場合に支給されるのが、葬祭費や埋葬費です。
亡くなった人が国民健康保険・後期高齢者医療制度に加入していた場合には、葬儀を行った喪主に対して5~7万円の葬祭費が支給されます(地域により異なります)。
会社員などで健康保険に加入していた人が亡くなった場合には、原則として5万円の埋葬料が、葬儀を執り行う人に支給されます(勤務先などによって異なる場合があります)。
どちらも、受取には申請が必要ですので、葬儀を執り行った際に手続きを忘れないようにしましょう。
公的年金
また、公的年金からは死亡一時金を受け取れることがあります。
老齢年金や障害年金を受け取っていなかった人が亡くなり、家族が遺族基礎年金を受け取らないときなど、要件に該当する場合に支給されます。
支給額は年金の保険料を納めていた期間などに応じて決まり、420ヶ月以上納めていた人の場合は32万円です。
亡くなった人に生計を維持されていた家族には、公的年金から遺族年金が支給されます。ただし遺族年金は家族の生活を保障するための制度で、支給までに手続きの時間もかかるようです。
亡くなってすぐに出費が必要になる葬儀費用には、あまり向かないかもしれません。
葬儀の規模やイメージに応じて必要な費用の準備を
もしも亡くなったとき、家族にはさまざまな対応が必要です。
なかでも葬儀は亡くなってからすぐに執り行うことから、急な出費にすぐに対応できるかどうかが重要です。
本人や家族の考えや希望に応じて、葬儀にいくらかかるのかを調べておいたり、予算を決めておいたりできるとよさそうです。
また、預貯金や保険などでの備えができているかどうかを確認し、いざというときにどのように使うかなども話し合っておくと、もしもの時にスムーズに葬儀費用を用意できるのではないでしょうか。
※ 出典:経済産業省「2020年経済構造実態調査報告書 二次集計結果【乙調査編】」
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執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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