留学やワーホリに行くときは、観光目的での海外旅行とは違い、長期滞在に合わせた準備をしておく必要があります。
住み慣れた日本とは生活環境も文化も異なりますから、それまでと同じような生活習慣で暮らしていると、思わぬアクシデントに見舞われるリスクがあるためです。
そんなとき、観光向けの海外旅行保険は使えるのでしょうか?ワーキングホリデーや留学時に使える保険について解説します。
留学保険・ワーホリ保険とは?
留学保険・ワーホリ(ワーキングホリデー)保険は、基本的なしくみは観光旅行用の海外旅行保険と同じです。
厳密には海外旅行保険の補償内容や補償期間をワーホリ、留学向けに設計したプランのことを指します。
ただし、観光旅行向けよりも幅広いリスクに備えられるしくみになっています。長期滞在をするなら、旅行者向けの海外旅行保険よりは留学保険やワーホリ保険があるとより安心です。
留学保険・ワーホリ保険と一般の海外旅行保険との違い
では、留学保険・ワーホリ保険は一般的な海外旅行保険とどんな違いがあるのでしょうか。
おもに次の4つの違いがあります。
補償期間の長さ
観光旅行向けの海外旅行保険は、補償される期間の上限が30日程度であるのが一般的ですが、留学保険・ワーホリ保険は最長で5年間加入できるものがあります。
補償を延長できる期間が長い
観光旅行向けの海外旅行保険の保険期間を延長するときは、当初の保険期間と合わせて通算で31日や6ヶ月までとされていることが多いのに対して、留学保険・ワーホリ保険は通算で最長2年まで延長できるものが多いようです。
現地で滞在するうちに、予定よりももっと留学したい・働きたいというケースでも安心です。
ただし、延長手続きには所定の時間がかかります。保険期間が終了してからでは延長できないため、期間が終了する2週間前など早めに手続きをするようにしましょう。
なお、結婚して海外に住むことになった、現地で永住権や定住権を得て住むことになった、帰国する予定がないなどの場合は延長できません。
生活用動産の補償がある
海外旅行保険には「携行品損害」といって、持ち物が壊れたり盗まれたりしたときに損害額が保険からおりる補償がついています。旅行カバンやビデオカメラ、携帯電話などが対象です。
留学保険・ワーホリ保険では、携行品だけでなく「生活用動産」も補償対象に含まれています。
たとえばホームステイ先に置いてあった家電製品が盗まれた、寮の部屋が空き巣に遭って家具や衣類が盗まれたなど、現地で生活しているからこそ起こる損害にも対応できます。
一時帰国の費用に備えられる
長期滞在をしていれば、家族が危篤になった、亡くなったなどで緊急に一時帰国しなければならないことがあるかもしれません。
一部の留学保険・ワーホリ保険では、そんなときにかかる帰国費用が保険からおりるオプションをつけることができます。
留学保険・ワーホリ保険の入り方
ワーホリ保険や留学保険は、基本的には旅行代理店や留学・ワーホリを手配する仲介会社などのうち、保険を取り扱っている会社を通して契約するケースが多いようです。
窓口で対面で手続きをするのが一般的ですが、保険期間が1年程度であればネットで加入できるものがあります。
手続きには所定の時間がかかります。出発日まで間もないタイミングだと加入できないことがありますので、日数にはゆとりを持って申込みましょう。
契約するとき、保険期間には原則として出発日から帰国日までの日数をすべて含むこととされています。
「行き帰りの飛行機に乗っている間だけ」、「到着後3ヵ月後から」といった部分的な加入は基本的にできません。留学・ワーホリのスケジュールが決まったら、その日数をカバーするように契約しましょう。
留学・ワーホリ時のリスクと保険の必要性
留学中・ワーホリ中には、どのようなリスクが考えられるのでしょうか?
外務省※1は、ワーホリで外国へ渡航する人に向けて「滞在期間が長いこと、他のビザと比べて行動の幅が広いことなどから、短期の海外旅行と比べ、トラブルに遭う機会が必然的に多くなっている」と注意喚起しています。
具体的には、次のようなトラブルが考えられます。
病気やケガ
外国は日本とは気候や水、食料などの生活環境が全く異なります。慣れない食生活で食あたり、水あたりなどを起こしてしまう人は少なくありません。国内とは異なる生活環境のなかで心身ともにストレスがかかり、普通に生活をしていても体調を崩すこともあるかもしれません。
海外で病院に行ったときには、日本で使える保険証は使えません。医療費の全額が自己負担になりますので、高額な請求をされることがあります。
日本の公的医療保険に加入した状態で海外に滞在していれば、公的な健康保険の対象にはなるため、帰国時に「海外療養費」を請求することで、かかった医療費の一部が戻ることがあります。同じ治療を日本で受けた場合の医療費に換算して、そのうち自己負担分(1~3割)を超えた部分が支給されます。
ただし、日本での治療費をベースに金額を算出するため、現地での治療費が高額なら自己負担した全額が戻るとは限りません。また、日本で保険がきく治療のみが対象です。日本で自費診療扱いになる治療法なら、海外療養費の対象外です。なお、そもそも治療目的で渡航した場合も対象外です。
留学・ワーホリ保険の治療費用補償では、旅行中のケガや病気の治療のために現地でかかった診療費や交通費、治療のために要した通訳費用などが補償されます。
交通事故
交通インフラも異なります。鉄道など公共交通機関が発達していない地域もありますし、クルマ社会の地域もあります。出発前までに生活していた環境と交通事情が違えば、それまでほとんど運転しなかった人が車に乗るかもしれませんし、いつもは歩いていた人が自転車に乗るかもしれません。
交通ルールや安全に対する価値観が違う国もありますので、交通事故のリスクも意識しておくことが大切です。
留学・ワーホリ保険では、旅行中の事故でケガをしたときの治療費用や、看病・付き添いのために現地に駆けつける救援者の渡航費に備えられます。
窃盗などのトラブル
B&Bやバックパッカーズ、ユースホステル、ゲストハウスで寝ている間や外出している間に貴重品を盗まれてしまう、レストランやバーで食事中に置き引きをされる、レンタカーを駐車場に止めている間に置き引きに遭うなどの被害が起きています。
たとえば外務省※1には、夜間にイヤホンで音楽を聞きながら歩いていたら、財布の入ったバッグをひったくられたなどの被害が報告されています。
留学・ワーホリ保険の携行品損害補償では、身の回りの持ち物が盗まれたり壊れたりした場合、生活用動産の補償ではそれに加えて滞在施設に保管中のものが盗まれたり壊れたりした場合の損害に備えられます。
入国時に保険加入が義務化されている国も
海外に滞在中のリスクに備える留学保険やワーホリ保険は、基本的に加入は任意です。
ただし、渡航先の国によっては入国時に海外旅行保険の加入が義務付けられているところがあります。
またドイツなど、ワーキングホリデー・ビザを取得するために旅行者用の医療保険と旅行賠償責任保険に加入することが義務付けられている国があります。医療保険は歯科の治療や、女性の場合は妊娠時にも適用されるものであることを要件とすることもあります。
ワーホリ向けの海外旅行保険ではこれらの要件を満たすものが多いですが、契約時には詳細を確認しましょう。
留学保険・ワーホリ保険で長期滞在の安心を確保できる
なにより、住み慣れた土地を離れて長期滞在するときには、それまでには想定できなかったトラブルのリスクがあります。それは、観光目的の海外旅行と異なることもあります。
留学・ワーホリで現地での勉強や仕事に安心して専念するうえで、留学保険・ワーホリ保険は大きな安心になるのではないでしょうか。
※1 出典:外務省「ワーキング・ホリデー制度による渡航者へのご注意」
参考:全国健康保険協会「海外で急な病気にかかって治療を受けたとき」
-
監修者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
気になった記事をシェアしよう!