海外で病院を受診すると医療費が高い、だから海外に行くときには海外旅行保険に入っておいた方がよいとよくいわれます。しかし、実際に海外旅行中に病気やけがをしたときにはいくらくらいかかるのでしょうか?
そこで、海外の医療事情や医療費について知っておきましょう。
海外の医療費は高い?海外の医療事情
海外でけがや病気に見舞われてしまった場合、いったいいくら払うことになるのでしょうか。
外国の医療事情は日本とは異なります。同じけがや病気でも、外国の医療機関では日本国内の病院でかかるよりも医療費が高額になることがあります。
例えば、転んで手首を骨折して治療を受けた場合に、日本なら医療費が数万円程度ですむところ、国によっては数十万円規模になることは珍しくないようです。
以下は日本と諸外国(アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ)の医療費を比較したデータです。
諸外国における医療費の状況
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アメリカ |
イギリス |
フランス |
ドイツ |
日本 |
外来医療費
|
胃腸炎初診 |
公立病院 |
約16,000〜 32,000円 |
約12,000円 |
約3,000〜 10,000円 |
約37,000円 |
2,880円〜 |
| 私立病院 |
約32,000〜 44,000円 |
約32,000円 |
約3,000〜 18,000円 |
約49,000〜 74,000円 |
入院医療費
|
虫垂炎 |
公立病院 |
約209万円 以上 |
約35万円 |
約63万円 |
約25万円 |
約31万円〜 [出典2] |
| 私立病院 |
約599.5〜 816.5万円 |
約62万円 |
約72万円 |
約37万円 |
| アキレス腱断裂 |
公立病院 |
約294万円 以上 |
約83万円 |
約91万円 |
約25万円 |
約35万円〜 [出典3] |
| 私立病院 |
約388万円 以上 |
約110万円 |
約100万円 |
約49万円 |
出典:日本医師会「日本と諸外国の医療水準と医療費」
胃腸炎のような比較的軽い症状であっても、海外の外来費用は日本の数倍〜十数倍になることがあります。入院を伴う治療になるとその差はさらに大きく、虫垂炎(盲腸)の手術・入院費用は日本では約31万円〜ですが、アメリカの私立病院では約600万〜800万円超に達するケースもあります(2019年時点)。
また、歯科治療も日本と海外の費用差が大きい治療の一つです。日本では歯1本の治療につき数千円程度に収まるのが一般的ですが、ニューヨークでは歯1本の治療につき約1,000ドル(2025年7月31日時点。1ドル=160円とした場合、約16万円)が目安※1とされています。
同じ治療でも病院ごと医療費が異なることも
日本では、治療や診療には「診療報酬」といって国に定められた医療の対価が決められているため、全国どこの医療機関を受診しても医療費にそれほど大きな差はありません。
しかし外国では国による医療費の水準が決まっておらず、医療機関が独自に医療費を設定していることがあり、金額にばらつきが出ることがあります。
例えば北京(中国)には、外国人専用の外来がある中国系総合病院や、英語や日本語で先進国と同様の医療が受けられる外資系のクリニックがあります。
特に後者ではレントゲンや採血、超音波などの検査により医師の収入が増加するシステムになっており、医療費が高額になりがちのようです。外務省※2によると、病院によってはかぜや胃腸炎などでも1,000元(2026年3月2日時点。1元=23円とした場合、約2万3,000円)以上かかることがあるようです。
医療費に加えて、検査代や入院費も
医療費は診察や治療にかかる費用だけで済むとは限りません。検査や入院をすれば、その費用もかかります。これらの費用も国によって水準が異なります。
例えば入院費は、個室か大部屋かによる違いはあるものの、日本では1日あたり数千円から数万円のところが一般的です。これに対して、外国では1泊あたり数十万円することもあります。
救急車が有料になることも
また、旅先で急に体調が悪くなって救急車を呼んだら、それだけで思わぬ出費になることがあります。
日本の救急車は原則として無料ですが、海外では有料の場合が少なくありません。例えばホノルル(アメリカ)では84,000円以上、北京(中国)でも3,100円~3万1,000円程度かかることがあるようです※3。
※2026年9月時点の情報をもとに執筆しています。海外の医療費は為替レートによって変動しますので、最新の情報をご確認ください。
診察前に支払いが必要なことも
さらに海外で病院を受診するときには、まず医療費を支払えるかどうかを問われることがあります。
例えばアメリカでは、一部の人を除き公的な医療保険制度に加入せず、民間の医療保険に任意で加入して病院での医療費の支払いに備えるのが一般的です。このため現地の民間医療保険に加入していないと、医療費の支払い能力を証明するために、病院の窓口で現金でのデポジットやクレジットカードの提示を求められる場合があります※4。
観光客であっても支払い能力がないと判断されると、診察や治療を受けられないおそれもありそうです。
海外での治療も、日本の公的医療保険は使える?
このように、海外での医療費のかかり方は日本と大きく異なります。また外国では、日本で使える健康保険証が使えません。
国内では公的な保険がきく治療なら、医療費の自己負担が1~3割に抑えられますが、海外旅行中には渡航先の国で請求された医療費を全額払わなければなりません。
ただし、日本の公的医療保険に加入している人は、海外でかかった医療費を帰国後に精算できる制度があります。「海外療養費」という制度です。
医療費の一部が戻る「海外療養費」
「海外療養費」は、日本の公的医療保険(健康保険や国民健康保険)に加入している人が、海外で急な病気やけがによりやむを得ず治療を受けた場合に、費用の一部の払い戻しを受けられる制度です※5。
現地の病院でいったん医療費を全額支払い、帰国後に加入している健康保険や国民健康保険へ申請します。
ただし、払い戻し額の計算方法には注意が必要です。支給されるのは、「現地で受けた治療を日本国内で受けた場合にかかる費用」を基準に計算した額から、自己負担相当額(現役世代なら3割)を差し引いた金額です。実際に海外で支払った金額が基準になるわけではありません。
海外療養費の支給額例
※出典:TJK 東京都情報サービス産業健康保険組合「海外の医療機関で受診したとき(海外療養費)」
例えば、海外で受診して現地で100ドル(約1万5,000円)を支払ったとします。同じ診療を日本で受けた場合の費用が1万円と判断されると、そこから3割にあたる3,000円を差し引いた7,000円が払い戻され、自己負担は約8,000円となります。
つまり、「海外で支払った額の7割が戻る」わけではありません。日本より医療費が高額な国では差額がそのまま自己負担として残るため、支払った額の1割程度しか戻らないケースもあります。
医療費だけではない、けがや病気でかかる費用
けがや病気になると、まずは治療が必要です。しかし、治療費以外でも思わぬ費用がかかることがあります。
家族が駆けつける費用
海外旅行中に大きな病気や、けがをしたとき、日本から家族に駆けつけてもらう費用です。
自分の医療費は海外療養費で一部カバーできるかもしれませんが、家族が飛行機で現地に来るための交通費は海外療養費の対象にはなりません。
急な病気やけがで家族に急きょ渡航してもらえば早期割引がきかず、高額な航空券の費用を負担することになる可能性もあります。
また、遠方の海外では、数日の滞在になることも考えられホテルなどの宿泊費もかかります。
事故での捜索費用
海外旅行では、ハイキングやトレッキング、シュノーケリング、スキューバダイビング、ジェットスキーなどに挑戦することもあるかもしれません。
アクティビティでは事故によるけがが心配ですが、救助や捜索が必要な場所でけがをしてしまった場合、捜索費用もかかります。捜索にかかる日数や人員などにより費用は異なりますが、山中や海上などアクセスしにくいところでヘリコプターなどで捜索をしたら、莫大なコストがかかるケースもあります。
海外旅行での病気やけがでは、こうした思わぬ出費が発生するリスクも想定しておきたいものです。
海外旅行保険で、旅行中の思わぬ病気やケガの出費に備えられる
高額になりがちな海外での医療費に備える手段の一つが、海外旅行保険です。治療費の補償だけでなく、旅行中に起こりうるさまざまなトラブルに対応できる点が特徴です。
海外旅行保険の補償内容
海外旅行保険の主な補償内容は以下の通りです。
提携する現地の医療機関で治療費を立て替えずに受診できるキャッシュレスサービスや、24時間日本語で相談できる窓口を利用できる商品もあります。海外でトラブルが起きた際に、費用面だけでなく現地での対応もサポートしてもらえる点が海外旅行保険の特徴です。
海外旅行保険で歯科治療はカバーできる?
海外旅行保険では、歯科治療は原則として補償の対象外です。
歯科治療が除外されている理由は、保険会社が歯科を「急激かつ偶然な病気やけが」ではなく、日常的なメンテナンスに近いものと位置づけているためです。また、渡航前から存在していた症状なのか、旅行中に発症したものなのかの判断が難しいことも背景にあります。
ただし、一部の保険会社では「緊急歯科治療費用特約」をオプションでセットできる商品があります。旅行中に突然歯が痛み出した場合の応急処置などが対象になりますが、補償額には上限(10万円程度)が設けられているほか、かかった費用の50%のみが支給されるケースが一般的です。
海外旅行保険の治療費用補償は無制限にした方がいい?
海外旅行保険の治療費用には「300万円」「1,000万円」「無制限」など複数の保険金額が用意されていますが、可能であれば「無制限」のプランを検討するとよいでしょう。
ジェイアイ傷害火災保険が公表した2025年度の海外旅行保険事故データによると、治療・救援費用の保険金支払最高額は2,530万円にのぼっています。300万円以上の高額医療費用事故も世界各地で発生しており、保険金額によっては補償が不足する可能性があります。とくに医療費の高い地域に渡航する場合は、無制限プランを選んでおくと安心です。
なお、「無制限」とは治療・救援費用の保険金額(支払限度額)に上限を設けないという意味であり、あらゆる治療が無条件に補償されるわけではありません。
海外旅行保険で、旅行中の思わぬ病気やけがの出費に備えられる
このように、海外では医療事情が日本と異なります。また日本での日常生活では経験しないスポーツやアクティビティをすることで起きるアクシデントにより、想定外の医療費がかかることがあります。
これらの費用に備える方法のひとつとして、海外旅行保険は有効です。病気やけがでかかる費用に備えられるほか、多くの海外旅行保険は日本から駆けつける家族の交通費なども補償の対象にしています。
また、慣れない土地でのアクシデントでは、動揺して冷静に対応するのが難しくなってしまうことがあるかもしれません。
海外旅行保険には、現地の病院に保険会社が直接医療費を払うキャッシュレス診療や、診察中の通訳サポートのサービスがついているものもあります。これらのサービスも、旅の安心につながるのではないでしょうか。
※1 出典:在ニューヨーク日本国総領事館「医療概要」
※2 出典:外務省「世界の医療事情 北京(中国)」
※3 出典:ジェイアイ傷害火災保険株式会社「海外での医療事情」
※4 出典:外務省「世界の医療事情 アメリカ合衆国(ワシントンD.C.周辺」
※5 出典:協会けんぽ「海外で急な病気にかかって治療を受けたとき」
※6 出典:ジェイアイ傷害火災保険株式会社「2025年度海外旅行保険事故データ」
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監修者プロフィール
荒木 和音(あらき かずね)
金融分野専門ライター
ファイナンシャル・プランニング技能士2級
保険代理店にて個人・法人向けの営業およびリスクコンサルティングなどに計10年以上従事したのち、金融ライターとして独立。大手証券会社・保険会社・大手金融メディアでの記事執筆・監修などを手がける。
海外旅行保険に関するよくある質問
海外旅行保険の治療費用で対象外になるものは?
海外旅行保険の治療費用では、旅行前から発症していた持病・既往症や歯科疾病、妊娠・出産・早産・流産に伴う治療などは、原則として補償の対象外です。また、故意や重大な過失、酒気帯び運転などによるけがも保険金が支払われない場合があります。
ただし、持病や歯科治療を一定の範囲で補償する特約もあるため、加入する商品の補償内容を確認しておきましょう。
帰国後に保険金を請求する場合、期限はありますか?
海外旅行保険は、帰国後でも保険金を請求できます。保険金請求権の時効は一般的に3年ですが、起算日は補償内容や事故の状況によって異なります。
また、治療費を請求する際は領収書や診断書などが必要になることがあります。書類を紛失すると手続きが難しくなるため、帰国後は早めに保険会社へ連絡して請求手続きを進めましょう。
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