タイヤの寿命はどこまで?新品vs4年タイヤの性能実験をレポート
山田 弘樹
モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 >プロフィールを見る
記事の目次
4年経過しても、タイヤの柔らかさは保てる
先日横浜ゴムが主催する勉強会で、興味深い実験を行いました。 それは「 4シーズン経ったスタッドレスタイヤが、新品に比べてどれだけ性能を維持しているのか?」というもの。具体的には新品状態のタイヤを特殊なオーブンに掛けて、4年間経過した状態を擬似的に作り出して、新品と比べるというものでした。
今回はこの勉強会のレポートと合わせて、タイヤの寿命についてお話しましょう。
ユーザーはフレッシュなタイヤを求めている!?
なぜこのような実験を行ったのかというと、それは最近の消費者が、タイヤの製造年月日を非常に気にするという理由があるようです。
ちなみに製造年月日は、タイヤの横の部分、「サイドウォール」で確認することができます。そこには各メーカーごとの英字表記と4桁の数字が記載されていて、この数字を見れば作られた時期がわかるのです。
たとえばその数字が「1020」であれば、「西暦20年の10週目に作られたタイヤ」となります。10週目というと70日ですから、2020年の3月ということになりますね。
しかしこの情報が一人歩きしたことで、タイヤ販売の現場ではちょっとした混乱も起きているようです。
消費者の立場として考えれば、「高いお金を出して買うなら、フレッシュなタイヤが欲しい!」と思うのは当然。しかし在庫状況などを考えると、誰もがその年に作られたタイヤを買えるとは限りません。
そしてメーカー側では、きちんとした保管状況であれば、その年のタイヤではなくてもきちんと性能を発揮できるように、タイヤを作っています。
今回はそれを実証するために4年相当という、スタッドレスタイヤとしては寿命とも言える年数まで経年劣化させたタイヤと、新品タイヤを比べたのでした。
氷盤でブレーキ性能を比べてみた!
その方法は、氷盤を作った屋内試験場で、制動距離を比べるというもの。
時速20km/hで走行し、目標に合わせてブレーキを、ABSが効くまで全力で踏んで、どれだけの距離で停止したかを比べます。
まず最初は、新品の「iceGUARD6 iG60」(アイスガード・シックス アイジーロクマル)。横浜タイヤが発売する、最新のスタッドレスタイヤです。装着車はトヨタ カローラ・スポーツで、タイヤサイズは195/65R15でした。
氷上でスピードを一定にするのは非常に難しいのですが、iG60は滑らず氷にグリップするため、3回のテストでもほぼ20km/hをキープ。そして制動距離は、およそ5mが平均値となりました。ただしこの5mという数値は、当日の気温や路面状況によって変わるので、ひとつの目安として下さい。
そして驚いたのは、4年経過相当のiG60も、これと変わらない距離できちんと止まったことでした。アクセルを踏んだときのグリップ感、そして制動時の氷をつかむ感触も、どちらが新品なのかわからないほどだったのです。
アイス性能は保管次第で新品に近い状態を保てる
ここから推察するに、iG60限定ではありますが、スタッドレスタイヤで一番求められるアイス性能においては、タイヤの寿命といわれる4年相当でも新品時と遜色ない状態を保つということです。そういう風に、横浜ゴムはスタッドレスタイヤを開発しています。
ただし保管状況としては、前回お話したように「直射日光を避けた、温度変化の少ない場所」を想定しています。即ちそれは、タイヤ屋さんの保管場所ということになりますね。
つまり4年経過した新品タイヤでも性能は劣化していないのだから、数ヶ月や一年程度では、タイヤは劣化しませんよ、ということになります。厳密に言えば雪上性能などは試していないため、少なくとも氷上性能だけ、ということになりますが。
柔らかさとタイヤの減りの両方で実際の寿命は変わる
面白かったのは、ゴムの柔らかさでした。試乗を終えてタイヤを触ってみると、新品よりも若干硬くはなっていましたが、4年経過相当のiG60でも予想以上にそのしなやかさを保っていたのです。つまりきちんと保管すれば、ゴムの劣化は最小限に抑えられることになります。逆に言うと、保管状況が悪ければカチカチになってしまいます。
また今回のテストは「新品タイヤを4年保管した状況」を想定したものなので、実際ユーザーが使う場合は、ここにタイヤの減りが加わってきます。
タイヤは一度熱が入ると、ゴムの劣化が始まります。ですから「4年経っても新品のままなのか!」とは思わないでくださいね(笑)。
つまりスタッドレスタイヤはゴムの柔らかさだけでなく、残り溝の状態によって氷をつかんでいることになります。ですからスタッドレスタイヤは、上手に保管すると同時に、タイヤの状態もチェックしてあげることがとても大切なのです。
執筆者プロフィール
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員