スライドドアのメリット・デメリット【後編】コスト面では?
山田 弘樹
モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 >プロフィールを見る
記事の目次
安全性のほかに気になるのはコスト面
スライドドアのメリット・デメリット【前編】安全面は十分?では、スライドドアの気をつけることとして、まず安全についてのお話をしました。今度はその仕組みを見ながら、コスト面でもそのメリット/デメリットを考えてみましょう。
スライドドアの枚数が増えると価格や燃費にも影響が
これは当然なことですが、同じセグメント(クルマの大きさ)であれば、片側よりも両側スライドドアのクルマの方が車輌価格は高くなります。
後述しますが重たいスライドドアが増えればクルマは重たくなり、燃費にも影響します。クルマが重たくなると、乗り味も変わります。それがどっしりとよい運転フィールになっていればよいですが、重たさが目立ったり、走っていてブルブルが目立つようであれば、片側スライドドア車の方が気持ち良く走れます。購入検討するときは、そんなところも気に留めてみてください。
個人的には、乗降時の安全性とコストのバランスで、スライドドアは片側、歩道側にあるものがよいと思います。
ドアの構造が複雑な分、車両価格や維持費も上がる
スライドドアは便利な反面、パーツが多く構造も複雑になるため、ヒンジ式に比べ車輛価格自体が高くなる傾向です。また構造が複雑ということは、年数を重ねていくと不具合が出てくる箇所も多くなる可能性があります。
手動式の場合は開け閉めが乱雑だと、レールやストライカー部分にガタが来るのが早まります。ワイヤーが伸びていたり、レールが汚れて動きが悪くなっているのに無理に開け閉めすると、当然故障を早めます。
普段使っていて「ちょっと動きが悪くなってきたかな?」と違和感を感じたら、確認してみましょう。掃除して動きが軽くなればしめたものですし、わからなければディーラーで定期的に確認してもらう。こまめな点検が、出費を抑えることに役立ちます。
故障時などのコストも含めて考えるのが大切
電動式は電気モーターでケーブルを巻き取る構造のため、モーターの故障、ケーブルの不良、ゴムパッキンなどの部品劣化による故障が多く、これらの修理には数万~10万円以上かかる場合も。電動部分が故障しても、運転席についているスイッチで手動操作に切り替えて使い続けることはできますが、一度電動式に慣れてしまえば、今更その便利さは手放せないと思うので、やはり修理するのが現実的でしょう。
また、部品点数が多いということは、クルマが重くなるということ。スライドドアは燃費=ガソリンコストにも影響します。
スライドドアにはのコストパフォーマンスを考慮すると、一概に数字だけを抜き出してこれが「高い」とは言えません。
ただこれまでヒンジ式のクルマに乗っていたのであれば、少しだけ「これまでよりちょっぴりお金がかかる」という心積もりをしておいた方がいいかもしれません。
ドアの開閉スピードの遅さが気になることも
急いでいる時などは、電動式スライドドアが閉まるスピードの遅さに気を揉むことがあると思います。特に激しい雨の日や、キャンプ場のように虫が多い場所で、開閉スピードの遅さが気になっているようです。
そんな声に応えるかのように、ドアが閉まりきる前にクルマを離れても、自動でロックしておいてくれる機能や、スライドドアを好きなポジションで止めておける機能(全開にしなくていい)など、痒い所に手が届く制御も登場しています。また燃費性能を落とさないために、部品点数を軽減して軽量化を図るといった、地道な開発努力も進めています。
スライドドアを閉めているときは安全確認の時間
それでも私は、あまりにクルマ側の制御が便利になり過ぎることには、注意が必要だと思います。そうなると、ユーザーは工夫をしなくなるからです。
たとえばひとつ覚えておくと良いのは、急いで発進したいとき。
電動スライドドアが閉まっている間の時間は、シートベルトを装着する時間だと思って下さい。お子さんがいる場合は「シートベルト締めてね」とひと声かけてあげましょう。
どちらにしてもシートベルトを装着しなければ、クルマは発進はできないのです(運転者には全席にシートベルトを着用させる義務があります)。シートベルトを装着して、安全に発進できるまでの時間をトータルで考えれば、これにイライラすることもなくなると思います。
便利な装備を使うときは、安全を一層意識して
子育て世代や高齢者を介護する世代にとっては、電動スライドドアはなくてはならないものになっています。その日々の労力を思うと、とてもありがたい装備です。
だからこそ、スライドドアのような便利な装備を使うときは、そのメリット/デメリットだけでなく、お子さんやご家族の安全を同時に意識して欲しい。クルマの安全装備は“うっかりしたとき”の予防装置で、真の安全を守るのはやっぱり私たちなのです。
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執筆者プロフィール
モータージャーナリスト
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経験。数々のレースにも参戦。2018年「スーパー耐久富士スーパーテック24時間」ではドライバーとして2位獲得。執筆活動、レースレポート、ドライビングスクール等の講師、メーカー主催イベントの講演など行う。