ハイヒールで運転、慣れてているのにどうしてにダメなの?
山田 弘樹
モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 >プロフィールを見る
記事の目次
操作に適した靴を選んで安全運転を
私は男性なので、ハイヒールでクルマを運転した経験がありません(笑)。
しかしこの問題はよく受ける質問なので、お答えしてみました。
道路交通法ではハイヒールが禁止されていない?!
技術的な回答をする前に、まず道路交通法に定められた「安全運転の義務」を見てみましょう。
道路交通法第七十条(安全運転の義務)
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
ここにあるように「ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作」するためには、それに適した履物で運転する必要があります。この義務に違反し事故を起こした場合には安全運転義務違反に問われることになります。
都道府県の細則に靴の規定が
でも具体的に「ハイヒール」とは書かれていませんよね?ではさらに道路交通法第七十一条も見てみましょう。
第七十一条(車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない)
六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項
とあります。これは各都道府県の公安委員会が定める細則(公安委委員会遵守事項)のことを指しており、その中に履物に関する具体的な記述を見つけることができます。
東京都道路交通規則第8条(2)
「木製サンダル、げた等運転操作に支障を及ぼすおそれのあるはき物をはいて車両等(軽車両を除く。)を運転しないこと」
宮崎県道路交通法施行細則第12条(7)
「げた、スリッパ、つっかけ、ハイヒールその他運転操作を妨げるおそれのある履物を履き、又は運転操作を妨げるような方法で履物を履いて、車両(軽車両を除く。)を運転しないこと」
サンダルやげたに続いて、実はハイヒールも運転操作を妨げる恐れのある履物として挙げられているのでした。
脱げにくくても操作に影響が
法律的な見地はわかっていただけたとして、では「かかともあって脱げにくいのに、なぜハイヒールはダメなのか?」についても考えてみましょう。
まず操作の前提として、アクセルやブレーキは右足のかかとを床に付けて行う(踏み変える)のが正しい操作であるとされています。かかとを床に付けてペダルを操作すると、そこが支点となって繊細な操作ができるのです。
もしいま、あなたがかかとを床に付けずにペダル操作をしているとしたら、足の動きが安定せず、ペダルを踏む力が強くなりすぎるなど、操作が荒くなったりしませんか?
器用に運転すれば、細いヒールを支点にすることがもできるかもしれません。
しかしハイヒールの場合は最初から足首が伸びてしまっているため、そこからペダルを踏み込む余地はほとんど残されていません。急ブレーキを踏むときに力が入らなかったら……。
そして、慣れもあるかもしれないですがハイヒールでの運転では、足が疲れやすくなるのではないかと思います。
マットの引っ掛かりで操作ミスにつながることも
また操作面で言うと細いヒールはフロアマットにひっかかりやすく、そのために操作が遅れたり、靴が脱げてしまう可能性も高まります。実際、ハイヒールが起因となった操作ミスによる事故の事例は、いくつか報告されているようです。
私が仕事で履く靴は、いわゆる革靴ではありません。かかと部分が布などのすべりにくいものを選んでいます。なるべく足にフィットして、底が薄く、柔らかいものが望ましい。
本当は背が高く見えるかっこいい革靴を履きたいのですが(笑)、安全を最優先しています。
またレースで使うレーシングシューズなどは、かかと部分までゴムが来ていて、ソールがやはり薄くなっています。
というわけでご質問の答えは、「ハイヒールでの運転は危険なのでやめましょう」ということになります。事故を起こさないためには、予測できる危険は最初から取り除いておくことが何より大事です。
スニーカーなど運転に適した靴を一足、クルマに積んでおくと安心ですよ。
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執筆者プロフィール
モータージャーナリスト
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経験。数々のレースにも参戦。2018年「スーパー耐久富士スーパーテック24時間」ではドライバーとして2位獲得。執筆活動、レースレポート、ドライビングスクール等の講師、メーカー主催イベントの講演など行う。