かっこいいキャリパーに変えたい︕⼤型キャリパーにするとブレーキの効きは変わる︖
山田 弘樹
モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 >プロフィールを見る
記事の目次
キャリパーはブレーキのパーツのひとつ。全体のバランスを⾒て変えることが⼤切!
ホイールの隙間から見える、ブレーキキャリパー。これが大きいと、確かに見栄えがグッと引き締まりますよね。
でも、ブレーキというのはまず、機能能部品であるということを覚えておいてください。
本来は見た目ではなく、そのクルマと使用速度に合ったブレーキシステムを付けることが大切。キャパシティが足りないのは論外ですが、効きが良すぎても普段の操作がしにくくなってしまうのです。クツと同じで、自分の運動量にあった物を付けていることが大切です。
ブレーキはキャリパー含め4つのパートからできている
それを踏まえて話を進めると、まずブレーキは4つのパートに分けて考えることができます。それはマスターシリンダー、キャリパー、ディスクローター、ブレーキパッド、の4つです。
ブレーキシステムの構造は、大小二つの注射器をつないだパスカルの原理です。
ブレーキペダルとつながるマスターシリンダーから伝わった油圧が、まずキャリパーのピストンに伝わり、ピストンに押されたパッドがタイヤと一緒に回転するディスクを挟みこみ、ブレーキを効かせます。
キャリパーだけ変えてもブレーキの効きは変わらない
肝心なキャリパーの仕事は、パッドでディスクを挟み込むことです。この力の調節は、ドライバーが行っています。強く踏めば強く挟み込み、弱く踏めば弱く効かせることができます。
つまりキャリパーは、制動力を調整するパーツなのです。だから単にキャリパーだけをカッコ良くしても、制動力自体は大きくなりません。
厳密にいうとパッドを押し出すピストンの面積が増えれば、パスカルの原理でその力は大きくなります。でもこれが同じなら、制動力は変わらないのです。
ちょっと難しい話になりましたね。
ではなぜ大きなキャリパーを付けるのか?
ではなぜ、高性能車は大きなブレーキキャリパーを付けるのでしょうか?
それは大きくなったパッドを均一に、ディスクへ押しつけるためです。
たとえば片側だけにピストンを備える「片押しキャリパー」よりも、両側にピストンを付けた「対向ピストンキャリパー」の方が、ブレーキパッドを均一にローターへ押しつけることができます。また片押しキャリパーは稼働部分が多いため、対向ピストンキャリパーに交換することでブレーキを踏んだときのレスポンスやタッチが良くなり、正確な操作がしやすくなります。
制動力を上げるためには、パッドとローターを変更する
直接的にブレーキの制動力を上げるのは、パッドとローターです。
ブレーキは運動エネルギーを熱エネルギーに変換することで、止まる力を発揮します。よって大きな制動力を発生するには摩擦力の高いパッドが必要になり、大きくなった熱エネルギーを放出するために、ローターも大きくする必要が出てきます。
また良く止まるパッドは減りが早いので、パッドを大きくする必要もあります。パッドが大きくなるのと、ローターが大きくなるのには、相関関係があるのです。
そして、この大きく横長になったパッドを、やはり大きくなったディスクへ均一に押しつけるために、キャリパーのピストン数を増やす必要があるのです。
サーキットを走るレーシングカーやスポーツカー、大きくて速いプレミアムSUVなどが「対向6ピストン」なんてすごいキャリパーを付けているのは、本来こうした理由からなのでした。
重要なのは「ブレーキの効き⽅のバランス」
ただ何度も言いますが、大切なのは走るシチュエーションに対する効き方バランスです。速く走ることがないのに大きなブレーキシステムを付けて、普段の運転がしにくくなるのは本末転倒。ホイールの中に大きくて重たいパーツが付けば、ガタガタした道では乗り心地も悪くなります。ホイールは上下動しますからね。燃費にも、多少は影響するでしょう。
「それでも大きくてカッコいいブレーキキャリパーが付けたい!」というのであれば、大きくなったブレーキシステムに対してパッドで効き方を調整する方法もあります。しかしそれだと本来の目的からは逸れますし、経験がないとパッド選択の判断も難しい。専門ショップと話ながら、決めて行くのがよいと思います。
また今より大きなキャリパーを付けるとなると、ローターやパッドだけでなく、ホイールも大きなものが必要になる場合があるのでご注意を!
ブレーキキャリパーの働き、わかって頂けたでしょうか?
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執筆者プロフィール
モータージャーナリスト
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経験。数々のレースにも参戦。2018年「スーパー耐久富士スーパーテック24時間」ではドライバーとして2位獲得。執筆活動、レースレポート、ドライビングスクール等の講師、メーカー主催イベントの講演など行う。