人生の中でも最も大きな買い物である住宅購入。マイホームを購入したら、生命保険も見直しておいたほうがよいといわれることがあります。でも、住宅と生命保険はどのような関係があるのでしょうか?そもそもまだ保険に入っていない場合は、今から入っておいた方がよいのでしょうか?
そこで、住宅購入時に意識したいお金のリスクや、生命保険の活用方法について知っておきましょう。
住宅ローンが返済できなくなるリスクとは?
住宅を買うときには、住宅ローンを組むことがほとんどです。借入額は数千万円と高額になるケースが多いですから、完済するまできちんと返していけるかどうか、事前に返済計画をたてておくことが大切です。
しかし、しっかりと返済計画を立てていても、思わぬアクシデントによって計画通りに返済できなくなるリスクもあります。ローンを返せないことで、せっかく買ったマイホームを手放すことがないように、もしものリスクに備えておくことが重要です。
おもに、住宅ローン返済中の(1)死亡、(2)働けなくなったとき、(3)退職の3つのリスクについて考えておきましょう。
1.ローン契約者の死亡で返済できなくなるリスク
まず備えておきたいのが、住宅ローンの契約者が返済期間中に死亡して、ローンを返済できなくなるリスクです。ただ、ほとんどの住宅ローンは、団体信用生命保険(「団信」とも呼びます)の加入を条件にすることで、死亡による返済リスクに対応できるしくみになっています。
住宅ローン契約と同時に団信に加入する
団信に加入すると、住宅ローンの契約者がもしも死亡したときには、その時点での残債と同額の保険金がおり、ローンの一括返済にあてられます。遺された家族がローンの返済を続けなくても、自宅に住み続けることができるのです。
つまり、住宅ローンを借りたら一部の例外を除くと借入と同時に生命保険(死亡保険)に加入することにもなります。団信によって、住宅ローン返済中の死亡のリスクはほぼカバーできます。
団信の加入には住宅ローンの契約時に申込手続きが必要ですが、原則として保険料を別途支払う必要はありません。借入先の金融機関が保険料を負担することがほとんどです。
2.病気・ケガによる収入減のリスク
住宅ローン返済がきつくなるのは、働けなくなって収入が下がったり、無くなったりしたときも考えられます。
会社員・公務員の場合には、病気やケガで仕事を長期間休んだときには「傷病手当金」の制度によりお給料のおよそ3分の2相当の手当を受け取ることができますが、収入は下がってしまいます。もらえる期間に限りもあります。自営業の場合には手当の制度がないため、働けない期間は収入がゼロになるリスクがあります。
収入が減ったときに住宅ローン返済を続けるのは、家計の負担が重いものです。
そのようなリスクに備えるには、おもに2つの方法があります。
働けなくなった時も保障される団信に加入する
団信は基本的に、ローン契約者が死亡したとき・高度障害状態になったときに、残債がゼロになるものです。病気やケガをしたとき、働けなくなったときには原則として住宅ローンの返済を続けなければなりません。
しかし団信にオプション(特約)をつけることで、がん、三大疾病、七大疾病など特定の病気、働けなくなった時にも保障される住宅ローンもあります。所定の病気と診断されたときや、病気が原因で働けない状態が一定期間以上続いたなど、要件を満たしたときには、その時点での残債と同額の保険金が支払われます。そして、以後の住宅ローン返済は不要になります。
特約付きの団信に加入する場合には、住宅ローンの金利に保険料相当の金利が上乗せされます。
医療保険・就業不能保険に加入する
生命保険会社で、病気やケガを対象にした医療保険や、働けなくなったときに保障される就業不能保険に契約する方法もあります。
住宅ローンとは別に契約するもので、医療保険は病気やケガで入院・手術をしたとき、がんや心疾患、脳血管疾患のように所定の病気にかかったときなど、各保険の要件を満たすと給付金を受け取れます。就業不能保険は、病気やケガが原因で働けない期間が続くなど、保険会社の要件を満たすと、給付金が支払われます。
団信と違って、受け取った給付金は、住宅ローン返済はもちろん、ほかの使い道に充てることもできます。また、団信の特約に比べて多くの保険会社からさまざまな商品が販売されており、選択肢が広いです。
3.退職で収入がなくなるリスク
定年退職やリストラなど、仕事の退職によって収入がなくなるリスクもあります。多くのケースは在職中に住宅ローンを借り入れ、そのときの返済能力をもとに借入額や毎月の返済額が設定されています。しかし収入がなくなれば、それまでと同じように返済するのは厳しくなります。
こうした退職のリスクに備えるには、住宅ローンの借り方や返し方を工夫したり、計画的に貯蓄を増やしておく方法があります。
退職を見据えて住宅ローンの返済計画を立てる
住宅ローンを借りる際には、毎月の返済額を抑えやすい35年返済を提案されるケースが多いです。年齢が若いときに借りれば退職前に完済できますが、30歳代以降に借りると定年退職後までローンが残るおそれがあります。現役中に完済できるように、住宅ローンの返済期間を60歳や65歳など、退職時期に合わせて設定しておくことは一つの方法です。
35年返済など長期の返済期間で借りた場合も、途中で繰上げ返済をすることで完済時期を前倒すことができます。住宅以外のライフプランも考慮しながら、家計にゆとりのある時期にまとまったお金が貯まったら、繰上げ返済に充ててもいいですね。
計画的に貯蓄をしておく
退職をして収入が無くなった後に住宅ローンが残っているとき、手元に十分な貯蓄があれば、その後も返済を続けるか、一括返済をすることができます。収入にゆとりがある時期に、住宅ローン返済と同時に少しずつでも貯蓄をしておきたいものです。
ローン返済と同時にお金を貯めるのは楽ではありません。また、住宅購入時には頭金や諸費用がかかって貯蓄が減っているケースが多いですので、少しずつ、時間をかけて積み立てるのでかまいません。つみたてNISA、iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)、個人年金保険など、毎月少額を積み立てながらお金を貯める、増やす方法もあります。
貯めたお金は、住宅ローン返済に充てることも、老後資金などほかの使い道に充てることもできます。
住宅購入と合わせて、将来のお金にも目を向けて
マイホームを買うときには、さまざまな準備や手続きで忙しいものです。物件購入や住宅ローン契約の手続きのほか、引越しなど新生活の準備もあります。新居での生活が整うまでは、思わぬ出費がかかることもあります。
しかし、長期間にわたる住宅ローン返済は始まったばかり。これから無理なく返済できるように、もしもの死亡、病気、働けなくなった時への備えについて一度考えておくことが大切です。
また、団信に加入することで保険の備えの形が変わる、住居費の大部分が住宅ローン返済になるなど、家計のお金のかかり方が変わる面もあります。これらを踏まえて、住宅購入を機に、家計の収支やリスクへの備えを見直しておくと安心ですね。
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執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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