住宅ローンを返済中に、契約者が死亡してしまったときに、保険金から残債を一括返済してくれるのが「団体信用生命保険」(以下、「団信」)です。銀行などで住宅ローンを借り入れると、多くの場合は団信も一緒に契約します。
団信に契約しておけば、万が一のときも住宅ローンの残債はゼロになりますが、病気で働けなくなったときには対応できないことがあります。
ローンの返済中に病気で働けなくなったときには、どのような対処法があるのでしょうか?
住宅ローンを組むとき加入する「団体信用生命保険」とは?
団信とは、住宅ローンを組んだ人が契約する生命保険です。
ローンの契約者が死亡または所定の高度障害状態になったとき、その時点の残債と同額の保険金がおり、住宅ローンを返済することができます。住宅ローンを組む時に、多くの金融機関で団信の加入が義務付けられています。
病気やケガで働けないときに団信は使える?
では、住宅ローンの契約者が死亡ではなく病気やケガで、長期にわたって仕事ができない状態になったとしたらどうでしょう?
基本的な団信は、死亡や高度障害のみを対象にしていますから、原則として保険金は支払われません。したがって、病気などの療養中も引き続き住宅ローンを返済していかねばなりません。
団信の対象になる場合・ならない場合
公的支援を活用して対応はできる?
就業不能状態が続くこととなった際には、傷病手当金などの公的支援を受けられる可能性があります。公的支援制度を利用して、医療費や収入の減少に備えることはできるでしょうか。会社勤めの人の場合を見ていきましょう。
1.有給休暇の消化
まず有給休暇(最長40日程度)を消化します。その後は欠勤となり、欠勤が一定期間続くと休職になります。会社によっては欠勤時の賃金保障制度がある場合もあります。
2.傷病手当金
次に、健康保険から傷病手当金(1日あたり標準報酬日額の3分の2)が通算1年6ヶ月支給されます。健康保険組合からの給付の場合には、附加給付や延長給付がある場合があります。
3.障害年金
その後、重度の障害認定(1級~3級)を受けた場合には、障害基礎年金(国民年金)や障害厚生年金(厚生年金)を受給できる場合があります(3級には障害基礎年金はありません)。いずれも、治療中の給付はなく症状が固定してから支払われます。
公的支援を活用しても収入を補えない場合も
こうした公的支援制度を利用することで、ある程度の収入を補うことは出来ますが、元の収入そのままの金額を受け取れるというわけではありません。
会社員の場合の収入減少イメージ
治療にかかる医療費に加え、働けなくなってしまったとき、つまり就業不能時にはお給料の収入が減ってしまい、さらに毎月の住宅ローン返済があれば、家計には大きな負担になります。
短期間だけならば貯金などで対処できても、長期間なると負担が重くなってしまうでしょう。できることなら住宅ローンを組む事前の段階で病気やケガでの長期療養リスクに備えておくのが安心です。
病気もカバーする団信「疾病保障付き住宅ローン」とは?
そこで、大きな病気をしたときにも住宅ローンの返済を免れる特約のついた団信もあります。「疾病保障付き住宅ローン」などと呼ばれるものです。
疾病保障付き住宅ローンの仕組み
疾病保障付き住宅ローンは、保険金の支払い対象を、死亡時だけでなく所定の病気にも広げたものです。
病気の種類や範囲は金融機関によって異なり、がん、3大疾病、7大疾病などがあります。それぞれの対象は一般的に以下の通りです。
疾病保障付き住宅ローンの種類
これらの病気によって所定の状態になると、その時点での住宅ローンの残高が保険金として支払われ、返済すべき残高がゼロになるしくみです。
「所定の状態」は、金融機関や病気の種類によって異なります。保険金の支払い対象になる、もしくはならない細かな条件は、契約先の金融機関に確認すると安心です。
通常の団信と疾病保障付き住宅ローンの違い
疾病保障付き住宅ローンの疾病保障部分は、団信と同じく生命保険のしくみを使っています。したがって保険料がかかります。保険料は、住宅ローンの金利に上乗せされるのが一般的です。
死亡と高度障害のみを保障する団信では、住宅ローンの契約で提示される金利にすでに団信のコストが含まれていることがほとんどですが、疾病保障付き住宅ローンの場合は、その分の金利が別途かかります。ただ金融機関によっては、保険料を別途支払う形式にして金利の上乗せをしないところもあります。
疾病保障付き住宅ローンを契約するには健康状態の告知が必要です。通常の団信でも必要ですが、契約できる要件が通常の団信と異なる可能性もあります。
持病があるときに、通常の団信なら契約できても疾病保障付きでは契約できないケースもありえますので、事前審査などで確認してみるとよいでしょう。
働けなくなったときの負担に備える「就業不能保険」とは?
既に通常の団信に加入している方の場合、働けなくなったときの経済的な負担に備えとして、就業不能保険を使う方法もあります。
就業不能保険とは保険会社が販売している生命保険のひとつで、病気やケガで働けない状態になったときに、保険金が毎月支払われるものです。
就業不能保険からの給付金額を毎月のローン返済額に合わせて契約すれば、疾病保障付き住宅ローンの代わりとして使えます。
こちらも、契約するには健康の告知が必要ですが、住宅ローンとは関係なく契約できます。
住宅ローンを契約するときには疾病保障付き住宅ローンを選ばなかった人や、借入先の金融機関に疾病保障付き住宅ローンがなかった人が、後から契約することもできます。
あるいは、住宅ローンの契約時には持病が理由で疾病保障付き住宅ローンに契約できなくても、返済中に健康状態が改善して、後から就業不能のリスクに備えたい場合にも対応できます。
就業不能保険の保険料は、性別・年齢・給付金額・保険期間などによって変わります。
「住宅ローンの金利に何%上乗せ」のように計算される疾病保障付き住宅ローンとは、保険料の計算方法が異なりますから、ご自身のケースでどちらが月々の負担が少なくなるか、比較してみてもよいでしょう。
住宅ローンを組むときは働けなくなった場合の備えも!
住宅ローンを組んだ時は健康でも、病気やケガでの療養はいつ必要になるかわからないものです。
長期就業不能にともなうリスクを、傷病手当金などの公的支援を含めて考え、きちんと備えておき、いざという時もご家族が安心して過ごせるようにしたいですね。
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執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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