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更新:(公開:2019年9月27日)

医療費だけじゃない!がん治療でかかる費用を軽減できる公的制度・保険を解説

監修者

加藤 梨里
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー  >プロフィールを見る

医療費だけじゃない!がん治療でかかる費用を軽減できる公的制度・保険を解説

がんにかかったとき、まず心配なのは自分の体のことでしょう。でもそのほかにも、治療にかかる医療費や自分と家族の生活費など、お金にかかわる不安も少なからずわいてくるケースが多いのではないでしょうか。

そこで、がんの治療や治療中の生活に関わるお金のことについて知っておきましょう。

がん治療中に必要な費用はさまざま

がんの治療費は進行度や部位、治療方針によって異なり、個人差があります。公的な保険がきく治療には診療報酬の点数が定められており、ひとつひとつの治療や技術にかかる医療費は決まっていますが、個々の症例でどんな治療を受けるかは事前に把握するのは難しいでしょう。複数の治療方法を組み合わせれば、計算はより複雑です。

そこで、一般的にどんなお金がかかるのかをみてみましょう。

がんの治療をしているときには、直接治療にかかるお金と、生活などに関係するお金がかかることが多いでしょう。

直接治療にかかるお金

まず、がんを治すために治療する費用がかかります。

検査代・診察費用・手術費用など

がんの診断をするための検査や診察、がんを取り除くための手術をする費用です。

医師の診察を受けると、診察を受けるたびに費用がかかります。また、がんの診断や状態の確認のために行われる検査には、おもに血液検査、CT、レントゲン、超音波・エコー、細胞を摂取する生体検査などがあります。がんを取り除く手術を受ければその費用もかかります。

治療をするときには、薬を飲んだり、抗がん剤治療などで点滴を受けたりすることもあります。

健康保険の対象になる治療や検査・技術なら、負担するのはかかった医療費のうち1~3割です。しかし新しい治療や薬、先進医療などで健康保険がきかないと全額が自己負担になります。がんの治療では、一部の抗がん剤治療や免疫療法などで保険がきかずに、全額が自費になることがあります。

ただし、全額が自費になる治療を受けるときには、通常は医師から事前に説明があり、患者や家族が希望、納得したうえで実施されます。知らない間に高額な費用がかかってしまうことは考えにくいでしょう。

入院代

重症度により異なりますが、がんの治療や手術はまず入院して行うことが多いです。入院中に個室などの有料の部屋を希望すると「差額ベッド代」がかかります。

差額ベッド代は健康保険の適用外で、費用の全額が自己負担です(ただし、病院の都合によるものは除きます)。また、入院中の食事代(1食あたり数百円)も健康保険適用外です。最近はがんによる入院期間は短くなってきていますが、長く入院するほど負担も大きくなります。

入院中や治療中の生活でかかるお金

直接にがんの治療には関係しませんが、がんの治療中に生活面でかかる費用もあります。元気なときには当たり前にできていたことが難しくなり、想定外の出費がかかることがあります。

入院時の日用品

入院時のパジャマや洗面用品、娯楽のための雑誌や新聞、テレビ代などがかかるケースがあります。

留守宅の家事代行、ベビーシッターなど

入院して自宅を留守にするなら、家族の食事作りや掃除などの家事、子どもの世話、介護などを人に任せることがあるでしょう。親族や知人などに手伝ってもらえればそれほど経済的な出費にはならないでしょうが、業者に依頼すれば費用がかかります。

通院のための交通費、ガソリン代

がんの治療は入院のほか、通院で行うこともあります。すると、病院に行くたびに車やバス、電車などの交通費がかかります。病状や薬の副作用の状況によってはタクシーを利用することもあるでしょう。家族が付き添うなら、そのための交通費もかかります。

家族が付き添えないときには外部業者の人に付き添いを依頼するサービスもあります。利用すれば、その費用もかかります。

診断書・生命保険会社への証明書を発行するための手数料

治療のために仕事を休職するときなどには、病院で診断書を発行してもらうことがあるでしょう。あるいはがん保険や医療保険の給付を受け取るためには生命保険会社へ申請するために診断書が必要なことがあります。

これらの書類を病院に発行してもらうときには、病院所定の手数料がかかります。1通あたり数千円から1万円程度かかることが多いです。

医療用ウィッグ(かつら)やストッキングなどの費用

治療をしながらの生活で必要になるものもあります。たとえば乳がんや子宮がんなどの手術をすると、後で手足にむくみが出るケースがあります。これは専門的には「リンパ浮腫」といって、重症化するおそれがあるときには専門の治療を行ったり、改善するために医療用の弾性グローブやストッキングを着用したりすることがあります。

これらの治療や医療用のストッキングなどには、保険診療の対象になるものがありますが、自費のものもあります。

また、乳がんや子宮がんなどの治療で使われる抗がん剤には、髪が抜ける副作用を起こすものがあります。そこでかつらを装着すると、数万円から数十万円かかることが多いようです。

医療用のウィッグでも、かつらは治療の範囲には含まれず公的な保険がききません。基本的には全額が自己負担になります。

がんにかかると収入減も心配

これらの出費をしながら家計を支えるには、仕事を続けて収入を維持したいところですが、がん治療との両立は実際には簡単ではないようです。東京都が2014年に実施した調査※1によると、がんにかかった人のうち34.5%は「治療費が高い、治療費がいつ頃、いくらかかるか見通しが立たない」ことで仕事を続けるのが難しいと回答しています。

そして、がんにかかった人の56.8%は収入が減り、50.4%が家計を維持するために貯蓄を切り崩したそうです。

がんにかかると、治療費はもちろん、それに加えて収入が減少してしまうという大きな経済的ダメージを受けるおそれもあるのです。

費用負担を軽減できる、公的制度やサービス

このように、がんの治療をしているときにはさまざまな経済的な負担がかかります。これを軽減できる公的な制度やサポートを活用して、少しでも負担を軽減したいものです。

たとえば、下記の制度やサービスがあります。

高額療養費制度

1ヶ月の医療費の自己負担が高くなったときに、上限以上の自己負担額が払い戻される制度です。

たとえば年収が約370~約770万円の人(69歳以下)が、1か月の窓口負担30万円(健康保険負担分を含めた10割では100万円)だった場合には、下記の計算式により、その月の自己負担限度額は87,430円になります。

自己負担限度額
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円

そして、30万円のうち自己負担限度額を超えた212,570円は高額療養費として後で健康保険から戻ってきます。

基本的には一時的に費用を窓口で支払い、申請すると後で払い戻される仕組みですが、加入している保険制度からあらかじめ「限度額認定証」を受け取って窓口で提示すると、最初から上限の範囲内までの請求になります。

医療費控除

1年間に10万円(総所得金額が200万円未満の人は、総所得金額の5%の金額)を超える医療費を自己負担して支払った場合に、超えた部分を「医療費控除」として確定申告をすると、所得税の計算上で所得から差し引ける制度です。

医療費控除を受ける金額の分、その年の所得が少なかったとして所得税を計算できるため、納めるべき所得税額が低くなります。

傷病手当金

会社員や公務員の人は、病気やケガで仕事を連続して4日以上休んで給料が支給されないときや減額されたときには、おおよその給料の2/3が「傷病手当金」として支給されます。

自治体の助成金

地域によっては、がん治療を受けている人へ経済的な支援をする制度を設けているところがあります。

おもに、がん治療やがんと付き合いながらの生活のために、公的な保険がきかない費用を負担したときが対象です。脱毛のために購入したウィッグや、乳房を切除したために必要になった補正用下着やシリコンパッドの費用の一部を補助する自治体が多いようです。

およそ1万円台~3万円程度の上限があることがほとんどですが、お住まいの自治体にこのような制度があれば活用してはいかがでしょうか。

こうしたがんでかかる費用のことや負担を軽減する方法については、全国の医療機関に設置されている「がん相談支援センター」でも情報を収集したり相談したりできます。質の高いがん治療を行っている「がん診療連携拠点病院」などに設置されています。

費用負担を軽減できる、民間の保険

公的な制度に加えて民間の保険を利用することでも、がんによる経済的な負担を軽減できます。おもに以下の保険は、がんの治療やがんと付き合いながらの生活でかかる出費に対応できそうです。

医療保険

病気やケガで入院や手術をしたときに給付金がおりる医療保険は、がんでの入院や手術でも保険がおります。多くは入院1日につきいくら、入院1回につきいくら、手術1回につきいくらのように、あらかじめ決まった金額を受け取れます。

がんにかかわる特約をつけておくことで、がんで入院・手術をしたときには給付金が上乗せされるものもあります。

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がん保険

がんの治療保障に特化した保険です。入院や手術の他にも、がんと診断されたときや通院したときに給付金がおります。

なかには、健康保険が適用される治療費だけでなく、適用外(自由診療)の費用もカバーしてくれる保険や、がん治療によって髪が抜けたときに給付金を受け取れる保険、がんにかかったときに医療用ウィッグの購入サポートや家事代行、食材の宅配などのサービスを紹介してくれるがん保険もあります。

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就業不能保険

病気やケガで働けなくなったときに給付金を受け取れる保険です。がんの場合も、入院や自宅療養で働けない状態と判断されると保険がおります。治療のために仕事を休み、収入が下がってしまったときに補てんすることができます。

これらの生命保険があると、公的な制度では対応できない医療費の負担や収入減をカバーしやすいでしょう。

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治療費以外に、がんでかかる経済的負担に備えておくと安心

このように、がんの治療中には医療費だけでなく、生活に関わるさまざまな費用がかかります。出費が増えるだけでなく、休職したり、働き方を見直したりして収入が下がるケースも多く、より経済的負担が重くなるケースは珍しくありません。

公的な制度や民間の保険を活用して、少しでも負担を減らし、安心して治療を受けられるようにしておきたいですね。

※1 出典:東京都福祉局「がん患者の就労等に関する実態調査」

参考:がん情報サービス「リンパ浮腫
参考:厚生労働省「仕事とがん治療の両立お役立ちノート」
参考:がん情報サービス「「がん相談支援センター」とは」

  • 監修者プロフィール

    ファイナンシャルプランナー 加藤 梨里

    加藤 梨里(かとう りり)

    マネーステップオフィス株式会社代表取締役
    CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
    マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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