がんの治療を受けるときには、病気や副作用への不安と合わせて、お金の心配もあるのではないでしょうか。
がん治療には多様な方法がありますが、新薬の開発などの影響で、医療費は高額化の傾向がみられています。お金がないという理由で治療の選択肢が限られるケースもあるようです。
では、がんの治療にはいくらくらいのお金がかかるのでしょうか。治療費やがんに関連してかかるお金、補助制度について解説します。
がんの治療費はいくらかかる?
がんの治療費は、いくらかかるのでしょうか。
公的保険が適用される標準治療を受ける場合には、医療費の自己負担割合は年齢や所得により1~3割に抑えられます。
厚生労働省のデータ※1を参考に、おもながんの医療費を確認してみましょう。
入院費用
入院治療をする際には一般的に、入院基本料、手術代、検査代、診察代、投薬料などがかかります。
これらを含めた医療費は、1件あたり約60~120万円となっています。3割負担に換算すると、約20~30万円になります。
がんの入院にかかる医療費
(単位:円)
傷病名 |
1件あたり 医療費 (10割) |
3割負担 の場合 |
胃の悪性新生物 |
688,874 |
206,662 |
結腸の悪性新生物 |
679,963 |
203,989 |
直腸S状結腸移行部及び直腸の悪性新生物 |
791,798 |
237,539 |
肝及び肝内胆管の悪性新生物 |
673,051 |
201,915 |
気管,気管支及び肺の悪性新生物 |
733,932 |
220,180 |
乳房の悪性新生物 |
618,330 |
185,499 |
子宮の悪性新生物 |
677,965 |
203,390 |
悪性リンパ腫 |
1,200,748 |
360,224 |
その他の悪性新生物 |
697,457 |
209,237 |
出典:厚生労働省「医療給付実態調査 令和4年度報告」より筆者作成
通院費用
がんの治療は、退院後に通院(外来)で継続するケースが少なくありません。
治療方針や治療期間などによる個人差も考えられますが、1件あたりでみると、通院にかかる医療費は4~10万円前後、3割負担の場合には1~3万円前後になるようです。
がんの通院にかかる医療費
(単位:円)
傷病名 |
1件あたり 医療費 (10割) |
3割負担 の場合 |
胃の悪性新生物 |
48,712 |
14,614 |
結腸の悪性新生物 |
45,082 |
13,525 |
直腸S状結腸移行部及び直腸の悪性新生物 |
60,564 |
18,169 |
肝及び肝内胆管の悪性新生物 |
109,702 |
32,911 |
気管,気管支及び肺の悪性新生物 |
107,293 |
32,188 |
乳房の悪性新生物 |
58,599 |
17,580 |
子宮の悪性新生物 |
37,142 |
11,143 |
悪性リンパ腫 |
79,559 |
23,868 |
その他の悪性新生物 |
71,855 |
21,557 |
出典:厚生労働省「医療給付実態調査 令和4年度報告」より筆者作成
先進医療や自由診療などには保険がきかない
がんの治療方法には、国によって安全性や有効性が確認された標準治療のほかに、研究段階である先進医療、患者申出療養、自由診療などもあります。
標準治療は公的医療保険が適用されるため、自己負担割合は1~3割に抑えられますが、保険適用外の医療費は、原則として全額が自己負担になります。
治療費を軽減できる公的制度
このようながん治療にかかる費用負担は、公的な補助制度で軽減できる場合があります。
おもなものを挙げてみましょう。
高額療養費
公的保険が適用される治療の医療費は、原則として自己負担割合が3割(70歳未満の場合)ですが、それでも、高額な治療を受けた際には自己負担額が高額になる場合があります。
そこで、1ヶ月ごとに、かかった自己負担額が所定額を超えた場合に、超えた分が払い戻されるのが「高額療養費制度」というしくみです。
多数回該当
がん治療では、抗がん剤治療や放射線治療などを継続的に受けることで、高額な医療費が長期間にわたってかかるケースもあります。
そのようなときに利用できるのが、高額療養費制度の「多数回該当」というしくみです。
12ヶ月以内に3回以上、自己負担額が所定の上限額に達した場合は、4回目からの上限額が下がるものです。
一例として、年収約370万~約770万円の場合には、通常の高額療養費の自己負担限度額(上限額)は「80,100円+(医療費-267,000円)×1%」で計算しますが、4回目からは上限額が44,400円に抑えられます。
自治体の助成制度
地域によっては、市区町村が住民のがん治療費へ独自の補助制度を設けている場合があります。
所定のがんで自己負担額が所定の基準を超えたときに、その一部または全額が補助されるといった内容です。
お住まいの地域にこうした制度があるかを確認してみてもよいでしょう。
治療費以外にもかかる費用も
がんの治療や療養中には、直接的な治療費以外にもさまざまな費用がかかることがあります。
病状や入院中の過ごし方によって個人差がありますが、おもな費用としては以下が挙げられます。
差額ベッド代
4人以下の部屋に入院したときには、原則として入院基本料とは別に差額ベッド代がかかります。
差額ベッド代の金額は各病院が設定しており、全額が自己負担になります。厚生労働省のまとめ※2によると、1日あたりの差額ベッド代は平均6,714円です。
食事代
入院中の食事代は、法律により基本的に1食あたり自己負担額510円です(2025年4月1日以降)※3。
住民税非課税世帯など、所得によっては負担額がより低額に抑えられています。
入院中の衣類・日用品代
入院中にはパジャマやスリッパ、着替えや歯ブラシなど、身の回りの生活用品が必要です。また、病室にあるテレビや冷蔵庫を利用する際に利用料がかかる場合があります。
家族のお見舞いの交通費や食事代など
家族がお見舞いに来るための交通費や面会前後の食事代がかかることもあります。
子どもや介護が必要な家族と同居している場合には、入院中の留守宅を任せるために家事代行やベビーシッターなどの費用がかかるケースもあるでしょう。
通院のための交通費など
退院後の通院に交通費がかかることもあります。体調によっては、タクシーを利用したり、家族や付添人が同行するための交通費もかかるかもしれません。
医療用ウィッグやストッキングなどの費用
術後の経過や副作用の状況によっては、手足のむくみを軽減するための医療用の弾性グローブやストッキング、外見ケアのための医療用ウィッグなどが必要になる場合があります。
一部には保険適用されるものもありますが、全額自己負担になるものもあり、数万円から数十万円の費用がかかるものもあるようです。
治療費以外のがんに関する費用への自治体の助成制度
地域によっては、がんで治療を受けている人に向けて市区町村が独自の助成制度を設けているところがあります。
医療用グローブやストッキングの購入、がん治療に伴う外見(アピアランス)ケアにかかる費用を補助するといった内容です。
そのほか、がん治療に限らず、1年間に負担した医療費が高額になったときに、所得税の申告時に利用できる医療費控除や、働いている人が治療や療養のために仕事を休業したときに受け取れる傷病手当金などもあります。
医療費や仕事の状況などにより、利用できるかどうかを確認してみるとよいでしょう。
がん治療の費用に対応できる保険
がん治療でかかる費用の負担は、民間の生命保険で軽減できることもあります。おもに以下の保険で、がんの医療費に対応できます。
これらの生命保険に契約していれば、がんにかかったときに保険金・給付金を請求することで、費用の負担を軽減できるかもしれません。
なお、保険金・給付金の請求時には一般的に診断書が必要です。発行してもらうには、1通あたり数千円から1万円程度、病院所定の手数料がかかることに留意しましょう。
がん保険
がんの診断、入院、手術、治療などで保険金や給付金が支払われる保険です。
先進医療や自由診療など、公的医療保険が適用されない治療を受けたときの自己負担を保障するがん保険もあります。
特定疾病保険
がん・心疾患・脳血管疾患など、特定の病気と診断されたときや病気により所定の状態になったときに、保険金を受け取れる保険です。
あらかじめ定めた一定額が支払われるのが一般的です。
医療保険
幅広い病気やけがを対象に、入院・手術時に保障を受けられる保険です。
がんも対象になるため、契約内容に応じて入院・手術時などに給付金が支払われます。
がんでかかる費用を確認して事前の備えを
がんの治療には、標準的な医療費として数十万円かかります。
公的医療保険が適用されない治療方法を選択した場合には、医療費の全額が自己負担になり、高額な費用がかかる可能性があります。
また、入通院や療養に関連してかかるさまざまな費用も考えられます。
病気の状況などにより個人差があるため、事前に正確な費用を把握しておくことは難しいですが、公的な補助制度や民間の保険により、一部を軽減できるかもしれません。
加入している保険の内容や、利用できる補助制度について確認してみるといいですね。
※1 出典:厚生労働省「医療給付実態調査 令和4年度報告」
※2 出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第591回)「主な選定療養に係る報告状況」
※3 出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定 Ⅲ-1 食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応-①」
-
執筆者プロフィール
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
気になった記事をシェアしよう!