医療費の負担が高額になったときに活用できる公的な制度の一つが「医療費控除」です。制度のしくみや対象になる費用、申告方法、いくら戻ってくるかを計算する方法について解説します。
記事の目次
医療費控除とは
医療費控除は、高額療養費や生命保険からの給付を受けても、自己負担した医療費の金額が1年間で一定額を超えたときに、その年の税の一部を軽減できる所得税の制度です。
医療費控除の対象になる医療費
医療費控除の対象になる医療費は、診療・治療・出産などに関わるもので、「その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」とされています。
対象の医療費なら、所得税を納税する本人のほか、生計が同じ家族にかかった医療費も医療費控除に含めることができます。
種類別 医療費控除の対象になる費用一覧
基本的には公的保険がきく医療費が中心ですが、自費診療など公的保険がきかない医療の一部にも、医療費控除の対象になるものがあります。
個別の治療ケースによって医療費控除の対象有無の判断が異なる場合もありますが、治療内容や種類ごとに、対象になるおもな医療費の例をみてみましょう。
治療を受けたとき
対象になるもの |
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対象にならないもの |
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健康診断・人間ドック・検査を受けたとき
対象になるもの |
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対象にならないもの |
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通院したとき
対象になるもの |
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対象にならないもの |
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薬の処方を受けた・買ったとき
対象になるもの |
※薬局やドラッグストアなどで購入する市販薬のうち、一定のものは医療費控除か、市販薬向けの医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)のどちらかを利用することができます。 |
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対象にならないもの |
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出産したとき
対象になるもの |
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対象にならないもの |
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妊娠しようとするとき、妊娠したとき
対象になるもの |
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対象にならないもの |
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歯科治療を受けたとき
対象になるもの |
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対象にならないもの |
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医療費控除の計算方法
医療費控除の金額は、1月1日から12月31日までの間に支払った医療費のうち、次の式で計算した金額です。
医療費控除額の計算式
※1 保険金などで補てんされる金額
算出した金額のうち10万円、または総所得金額の5%の金額(総所得金額が200万円未満の場合)を超える金額を、医療費控除として所得税の計算上で課税される所得から差し引くことができます。
生命保険金、高額療養費、傷病手当金などは差し引く
医療費控除額には、生命保険から受け取る保険金や給付金、健康保険制度から受け取る高額療養費や傷病手当、出産育児一時金などは含まれません。これらの金額は、医療費控除額を計算するときに、年間の医療費から差し引きます。
ですから医療費の負担を軽減するには、まずは1ヶ月ごとに高額療養費制度を利用し、それでも医療費の負担が重かったら、1年分の医療費をまとめて、医療費控除を利用するといいでしょう。
医療費控除でいくら軽減される?
医療費控除を利用すると、いくらくらい税が軽減されるのでしょうか。一例として、1年間に20万円の医療費を自己負担した場合の計算例を挙げてみましょう。
医療費控除額
支払った医療費の合計額から保険金などで補てんされる金額差し引いたものから、10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%)を引いた金額です。
医療費控除によって軽減される税額
上記の医療費控除額を、税額の計算時に所得から差し引きます。
税額は所得に税率をかけて計算しますが、所得税率は所得の大きさに応じて5~45%の間で決まります。(所得の大きさは、その年の収入やその人が使える控除の種類や数によって異なります。)
したがって、この例で医療費控除によって所得税から軽減される額の目安は以下の範囲になります。
医療費控除の申告方法
医療費控除を受けるためには、自分で確定申告をする必要があります。1年間にかかった医療費を自分でまとめて、控除額を計算し、翌年の2月~3月の確定申告期間に税務署に申告します。
医療費控除の種類を選ぶ
医療費控除には、通常の医療費控除と、特例である「セルフメディケーション税制」の2種類があります。併用はできないので、1年間にかかった医療費の種類などに応じてどちらかひとつを選びます。
申告書を作成する
確定申告で医療費控除を受けるには、「医療費控除の明細書」という書類を、ほかの所得も含めて所得や税についてまとめた確定申告書とともに税務署に提出します。
医療費控除については、おおまかに次のような流れで作成します。
1.医療費控除の明細書を用意する
医療費控除を受けるための「医療費控除の明細書」を、税務署や国税庁のホームページから入手します。ホームページや電子申告ソフト「e-Tax」では、画面上に直接入力することもできます。
通常の医療費控除と、市販薬向けのセルフメディケーション税制では書式が異なりますので注意しましょう。
2.医療費の内容を記入する
1月1日から12月31日までにかかった医療費の内容を記入します。医療機関名、診療や医薬品購入といった医療費の種類、支払った金額などを記入します。
医療機関から受け取る領収書のほか、健康保険組合などから数ヶ月ごとに送られてくる「医療費のお知らせ」を使って記入できます。交通費など領収書がないものは、日付と金額などを記録した家計簿やメモがあれば、その内容を記載します。
マイナンバーカードを健康保険証として利用していれば、個人情報を管理する「マイナポータル」で、医療費の情報をまとめて閲覧することができます。e-Taxと連携して、自動入力することもできます。
3.控除額を計算する
申告する年分の医療費の総額と、医療費控除の金額を計算します。自分で計算することもできますが、国税庁のホームページやe-Taxソフトでは、画面に従って必要項目を入力すると自動計算できます。
申告手続きをする・払い戻しを受ける
医療費控除の金額が計算できたら、給与などほかの所得と合わせて確定申告書に記入し、税務署に提出します。会社員など年末調整ですでに所得税を納税済の場合には、医療費控除を反映した確定申告をすることで納めるべき税額が少なくなり、税の一部が戻ってくることがあります。
確定申告書には、税の払い戻しを受ける振込先口座を記入する欄があります。そこで指定した銀行口座に、還付金が振り込まれます。
1年間の医療費が高額なときには、医療費控除を活用
1年間に医療費の自己負担が高額になったときには、医療費控除を利用できます。自分の医療費だけでなく家族の医療費や市販薬なども対象になりますので、まとめてみると税が軽減されるかもしれません。
※1 出典:国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
※2 出典:国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。