健康保険には、病気やケガで働けなくなった場合に生活資金の一部を補てんするための「傷病手当金」という制度があります。
どんなときに手当を受け取れるのか、そしていくら受け取れるのか?傷病手当金のしくみを知っておきましょう。
記事の目次
傷病手当金は病気やケガで働けない場合の手当
傷病手当金は、病気やケガで仕事ができない状態にあり、会社を休んだ時に給付される手当のことです。
休業によって収入が下がる、またはなくなってしまうことで経済的に生活に支障が出ないように、給与のおよそ2/3の金額が支給されます。
傷病手当金は会社員のみ対象
傷病手当金は健康保険の制度のひとつで、勤務先で社会保険に加入している人に向けたものです。
公的な健康保険制度※1には、一般的に会社員が加入する被用者保険と、自営業やフリーランスが加入する国民健康保険、そして75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度があります。
このうち被用者保険には、大企業の従業員とその家族が加入する組合管掌健康保険(組合健保)、中小企業の従業員とその家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)、公務員や団体職員とその家族が加入する共済組合、船員が加入する船員保険があります。
傷病手当金の対象者
被用者保険 | 組合管掌健康保険(組合健保) | 〇 ※加入者本人のみ |
---|---|---|
全国健康保険協会(協会けんぽ) | ||
共済組合 | ||
船員保険 | ||
国民健康保険 | × | |
後期高齢者医療制度 | × |
傷病手当金は、これら被用者保険の健康保険制度に加入している本人に支給されます。国民健康保険には傷病手当金の制度はありません。
また、会社員の妻などで扶養に入っている人も傷病手当金の対象外です。かりに会社員の妻が病気やケガでパートを休んでも、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金を受け取る4つの条件
では、健康保険に加入している本人が病気やケガで仕事を休んだときには、どのように傷病手当金を受け取るのでしょうか。
受給には、次の4つの条件すべてを満たす必要があります。
1.業務外の病気やケガであること
まず、業務外での病気やケガであることが要件です。仕事中や通勤中、仕事が原因の病気やケガは傷病手当金の対象ではなく、労災保険の対象です。
また、病気やケガの治療のみが対象です。美容整形などのために仕事を休んでも、傷病手当金は支給されません。
2.仕事ができない状態であること
ただ仕事を休んでいるだけではなく、仕事ができない状態であることも要件です。入院や手術で病院にいる間は基本的には仕事ができない状態とみなされます。
また、医師によって仕事に従事することが不能と判断され、証明を出してもらえば、自宅療養でも「仕事ができない状態」とみなされることがあります。これは一律の基準があるわけではなく、休業中の心身の状態のほか、それまでにどのような業務を担当していたかによって個別に判断されます。
たとえば、営業などの外回りをしていた人が足を骨折してしまうと、ケガが治るまで担当業務ができないと判断される可能性がありますが、デスクワークをしていた人なら業務可能とされる可能性があります。
3.土日含め4日以上連続して休んでいること
長期に渡って仕事ができない状態であることも要件です。このため、3日間の「待期期間」が設けられています。
3日間連続で業務ができない状態が続き、4日目以降も仕事を休むことになった場合に、4日目から傷病手当金が支給されます。
3日間の待期期間には土日や祝日、有給休暇を取得した日も含めてカウントします。(ただし、傷病手当金の支給開始後の土日、祝日は支給対象日にはなりません。)
4.給与を受け取っていないこと
傷病手当金は、働くことができずに生活費が得られないことに対する保障なので、休んでいても所定以上の給与を受け取っていれば支給されません。ですから、有給休暇を取得した日は、傷病手当金の支給対象になりません。
また傷病手当金は1日ごとに、本来給与が支払われるはずだった休業日に対して支払われます。ですから、給与を受け取っていなくても土日、祝日は支給対象日にはなりません。
ただし、給与の一部が支払われていて、受給されるべき傷病手当金がそれよりも高ければ、差額を受け取ることができます。
傷病手当金の受給期間は通算で1年6ヶ月
傷病手当金が支給される期間は、通算1年6ヶ月です。
支給期間中に一時的に仕事に復帰し、その間傷病手当金が支給されなかった場合には、その後また同じ病気やケガで仕事を休んだら、支給期間の通算が1年6か月までは繰り越して受給可能です。
ただし1年6ヶ月を超えてしまうと、同じ病気やケガが原因で仕事ができない状態となっても、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金を受け取っている間に退職した場合
もし、傷病手当金を受け取っている間に退職をしたら、引き続き受け取ることはできるのでしょうか。
会社を退職した後には、お住まいの自治体の国民健康保険に自分で加入するか、会社の健康保険の任意継続被保険者になるなどの選択肢があります。
このうち任意継続は本来は傷病手当金を受け取る対象ではありませんが、勤続1年以上勤めた後に休業して傷病手当金を受け取っている間に退職し、任意継続被保険者になった場合には受給を続けられます。
退職日までの勤続年数(健康保険に加入している期間)が継続して1年以上あれば、途中で退職しても傷病手当金は引き続き支給されます。しかし、勤続年数が1年未満の場合には、退職した時点で傷病手当金の支給は打ち切られてしまいます。
傷病手当金の受け取り額は給与の3分の2
傷病手当金は、おおむね給与の2/3の金額が支給されます。正確には、支給される前までの12ヶ月間の給与(標準報酬月額)の平均額を30日で割っておおよその日給を算出し、その2/3が、1日あたりの傷病手当金額になります。
1日あたりの傷病手当金額
※支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均
なお、病院に行ったときの医療費の自己負担は、保険がきく診療のみ1~3割になりますが、傷病手当金では保険がきく治療を受けたかどうかは要件ではありません。自費で診療を受けていた場合でも、医師に仕事ができないことを証明してもらえば、上記の計算式により受給できます。
ただし、上記は1日単位で支給判定されます。休業中に一時的に出勤して給与支給されると、その日の分は受け取れません。あるいは休んでいても給与が支給されていると、傷病手当金の支給額が調整されることがあります。
出産手当金を受け取っていても差額を受け取れることがある
また、出産手当金を受け取っている場合には原則として出産手当金のみ支給されますが、傷病手当金の金額の方が高ければ、差額を受け取ることができます。
つわりや切迫流産などにより、妊娠中に休業をして傷病手当金を受け取っている間に出産をし、そのまま産休に入るようなケースでは、傷病手当金と出産手当金の両方の受給資格を満たすことになりますが、両方から満額を受け取ることはできません。
傷病手当金をふまえて、働けなくなったときの備えを考えて
このように、傷病手当金は病気やケガで仕事を休んで収入が下がってしまったときの経済的な補てんになります。民間の生命保険や医療保険に入っていなくても、こうした公的な補助で、いざというときへの備えを確保できます。
ただし、傷病手当金から受け取れる金額は、おおよその給与の2/3です。残りの1/3分は貯蓄を取り崩すなどで生活費を工面する必要がありますから、その備えとして民間の生命保険や医療保険、就業不能保険などを検討するとよいのではないでしょうか。
また、傷病手当金を受給できるのは通算1年6ヶ月です。それ以上の長期間にわたって休業した場合も考慮しておくと安心です。
さらに、傷病手当金は会社員や公務員本人に向けたしくみです。自営業やフリーランス、扶養に入ってパートをしている人には支給されません。これらの働き方で収入を得ている人は、働けなくなったときの備えをより意識しておきたいものですね。
※1 出典:厚生労働省「我が国の医療制度の概要」
参考:協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき」
参考:協会けんぽ「任意継続被保険者の保険給付」
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。