
病気やケガで治療を受けると、医療費がかかります。公的な医療保険制度によって、その負担は1~3割に抑えられてはいるものの、大きな手術をしたり、入院が長くなったりするとまとまった金額になることもあります。
そこで、医療費の自己負担をさらに軽減する方法が、高額療養費制度と医療費控除です。
記事の目次
「高額療養費制度」とは?
高額療養費は、健康保険の制度です。1か月にかかった医療費の自己負担が所定の限度額を超えると、超えた部分が戻ってくるものです。限度額は、年齢と年収によって異なります。加入している健康保険によりますが、おおむね入院・通院をした翌月以降に手続きをして、3~4か月後に受け取ります。
例:年収約370万円~770万円の場合(3割負担) 100万円の医療費で、窓口の負担(3割)が30万円かかる場合


出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月)
では、1か月の自己負担がいくらを超えると、高額療養費が戻ってくるのでしょうか?69歳までと、70歳以上それぞれの自己負担限度額を見てみましょう。
自己負担限度額(69歳まで)
69歳までの方は、年収に応じて世帯ごとの限度額が5段階にわかれています。家族で同じ健康保険に加入していれば、一家でかかった自己負担を合算することもできます(ただし所定の要件があります)。
たとえば、60歳で年収が約370~約770万円の方が、1か月の窓口負担30万円(健康保険負担分を含めた10割では100万円)だった場合、下記の計算式により、その月の自己負担限度額は87,430円になります。そして、30万円のうち自己負担限度額を超えた212,570円は高額療養費として後で健康保険から戻ってきます。
自己負担限度額:80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円
また、妻と子どもが扶養に入っていて同じ健康保険の保険証を持っていれば、同じ月に妻が2万1千円以上、子どもが2万1千円以上の医療費を自己負担した場合は合算できます。つまり、妻と子供の分も含めて、自己負担の限度額は87,430円になるわけです。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) |
---|---|
年収約1,160万円~ 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 |
252,600円+(医療費-842,000)×1% |
年収約770~約1,160万円 健保:標報53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 |
167,400円+(医療費-558,000)×1% |
年収約370~約770万円 健保:標報28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 |
80,100円+(医療費-267,000)×1% |
~年収約370万円 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 |
57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
※注:1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含みます。)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担(69歳以下の場合は2万1千円以上であることが必要です。)を合算することができます。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。
出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月)
自己負担限度額(70歳以上)
70歳以上の方は、年収などによって自己負担限度額が6段階に分かれています。また、年収約370万円までの人については、外来でかかった医療費の限度額が個人ごとに設けられています。
70歳以上の方の上限額(平成30年8月診療分から)
所得区分 | 本来の負担の上限額 |
---|---|
年収約1,160万円~の方 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
年収約770万~約1,160万円の方 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
年収約370万~約770万円の方 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
~年収約370万円 | 57,600円 外来(個人ごと):18,000円(年14万4千円) |
出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月)
家族で同じ健康保険に加入していれば、一家でかかった自己負担を合算することもできます。
たとえば、70歳で年収が約156~約370万円の方の1か月の自己負担限度額は57,600円です。そして妻も同じ健康保険の保険証を持っていれば、同じ月に妻が自己負担した医療費も合算できます。つまり、妻の分も含めて、自己負担の限度額は57,600円になるわけです。
夫と妻が同じ世帯にいると、医療費を合算できる


出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月)を基に筆者作成
高額療養費の対象になるお金・ならないお金
高額療養費の対象となるのは、保険がきく診療費です。外来・通院でかかった診療費も対象になります。ただし、入院中の食事代や保険がきかない自費診療は対象外です。
また、同じ月に複数の医療機関にかかった場合は合計して、限度額を超えれば高額療養費の対象になります。ただし69歳以下の方は受診者別、医療機関別、入院・通院別で21,000円以上のものを合算できます。
高額療養費の受け取り方とは?
高額療養費の受け取り方は、加入している健康保険の種類によって異なります。
健康保険組合の場合
お勤めの方は、自分では特に手続きをしなくても、会社の健康保険組合で高額療養費の計算をして還付の手配をしてくれるところが多いです。
医療機関の窓口で保険証を提示した際に、いつ、いくらの医療費がかかったかの情報が健康保険組合に共有されるため、会社で手続きをしてくれるのです。のちに受け取るお給料に、還付された高額療養費が上乗せされて戻ってくることが多いです。
還付されたときには、給与明細にその旨も記載されます。
協会けんぽ・国民健康保険の場合
中小企業にお勤めで協会けんぽに加入している方や、自営業、無職、年金生活などで国民健康保険に加入している方は、自分で高額療養費を受け取る手続きが必要です。
「高額療養費支給申請書」という書類を記入して、加入している健康保険窓口に提出します。書類には、診療を受けた日付、医療機関名、自己負担した金額、還付を受け取る銀行口座情報などを記入します。協会けんぽに加入している方は所属の都道府県支部に、国民健康保険に加入している方はお住まいの地域の窓口に提出します。
自分で申請が必要な場合は、申請をしないと高額療養費は戻ってきません。また、受け取るまでには時間がかかります。おおむね、診療を受けた月から3か月~4か月後に振り込まれます。
窓口負担を抑えるには「限度額認定証」を利用
このように、高額療養費での医療費の還付は、診療を受けた翌月以降に手続きをして、3~4か月後に受け取ることになります。ですから、入退院のタイミングでは手元にお金が必要です。
この時点での負担をはじめから軽減するためには「限度額認定証」というものを用意しておくとよいでしょう。
限度額認定証とは、加入している健康保険にあらかじめ発行してもらい、医療機関の窓口に提示しておくと、窓口での請求金額に限度額が設けられるものです。
高額療養費の利用回数が多くなると、さらに負担は軽減される
1年間に医療費が高額になる月が3回以上になれば、4回目からの自己負担限度額が下がるしくみもあります。「多数回該当」といいます。
70歳以上の方の場合(平成30年8月以降の診療分)
所得区分 | 本来の負担の上限額 | 多数回該当の場合 |
---|---|---|
年収約1,160万円~の方 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
年収約770万~約1,160万円の方 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
年収約370万~約770万円の方 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
~年収約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
69歳以下の方の場合
所得区分 | 本来の負担の上限額 | 多数回該当の場合 |
---|---|---|
年収約1,160万円~の方 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
年収約770万~約1,160万円の方 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
年収約370万~約770万円の方 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
~年収約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月)
公的制度を活用して家計の負担軽減を
このように、高額療養費では医療費が高額にならないように限度額を設けていますが、それでも1年間での負担が重くなるときには、医療費控除も合わせて使えます。
医療費控除は、所得税のしくみで、1年間の所得税を計算するときに、10万円を超えた自己負担分を差し引けるものです。
ですから、入院や通院をして医療費がかかったときには、まず健康保険の高額療養費を申請し、1か月間の負担を抑えましょう。そして1年間での医療費の自己負担が合計で10万円を超えたら、所得税の医療費控除を申告するとよいですね。
今みんなが選んでいる保険は?
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。