
毎年2月から3月にかけて行う確定申告。自営業やフリーランスなら申告や納税の経験がある人が多いでしょうが、会社員などでこれまで確定申告をしたことがない人は、どんなしくみなのか、どんなときに必要なのかよくわからないかもしれません。
そこで、確定申告の基本を知っておきましょう。
記事の目次
確定申告とは?
確定申告とは、ある期間の収入について、その額や課税される税額を確定して、税務署に申告をすることです。
一般的に確定申告というと個人の人がするものというイメージがあるかもしれませんが、実はそれだけではありません。
個人が所得税を申告する手続きを指すのはもちろん、一定額以上の売上がある個人事業主が消費税を、企業が決算時に法人税を申告するときなどにも、確定申告をします。
ここではそのうち、個人の人に身近な、所得税にかかわる確定申告について説明します。
確定申告は何のためにする?
所得税の確定申告は、1年間の所得を申告し、そこにかかる税を納税したり、納め過ぎた税を戻してもらう手続きです。
1月から12月までの収入をもとに、課税される所得や納税額を計算し、その内容を申告します。納めるべき税額がある場合には納税をします。
税金を納付する
所得にはさまざまな種類があり、そのうち確定申告をする必要がある所得を得た年には確定申告をします。
1年間の所得や税額を計算して、税務署に確定申告書を提出することを「申告」といいます。また、申告内容にもとづいて納めるべき税額を納めることを「納税」といいます。
払いすぎた税金を還付してもらう
確定申告では、多く納め過ぎた税額を戻してもらう「還付」の手続きをすることもできます。
たとえば天引きで所得税をすでに納税していたときや、予定納税といって年の途中で見込みの税額をすでに納付していたときなどです。
確定申告の期間は?
確定申告をするのは年に1回です。1月1日から12月31日までの所得を、翌年の2月16日から3月15日の間に申告・納税するのが原則です。
ただし2月16日や3月15日が土日・祝日にあたる場合は、申告・納税期間は翌営業日になります。
申告も納税も、原則は申告期間中に行います。
ただし、確定申告をすることで税が戻ってくる「還付申告」の場合には、申告期間の前や後でもできます。申告対象になる期間の翌年1月1日から、5年間受け付けてもらえます※1。
所得の計算方法は?
所得税は収入から、その収入を得るためにかかった経費や、所定の「控除」という額をさしひいた「所得」に対してかかります。
たとえば会社員の人がおもに得る「給与所得」は、源泉徴収される前の給料やボーナスの収入から、所定の計算式で算出する「給与所得控除」という額を差し引いた金額です。
また個人事業主の人がおもに得る「事業所得」は、総収入金額から原価や販売費、管理費などの必要経費を差し引いたものが基本です。
これらの所得から、所定の「控除」を差し引いて課税対象となる所得を計算し、所定の税率をかけて税額を計算します。
しかし、すべての所得について確定申告が必要なわけではなく、預金の利子など「利子所得」は、利子が付く時点で所得税は源泉徴収され、申告が不要です。
所得税の対象になる10種類の所得※2
給与所得 | おもに給料ボーナスによる所得 |
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事業所得 | 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業による所得 |
不動産所得 | 土地、建物、マンションの部屋、借地権などの貸し付けによる所得 |
利子所得 | 預貯金や債券などの利子、公社債投資信託の分配による所得 |
配当所得 | 株式、株式投資信託などの分配金による所得 |
退職所得 | 退職金による所得 |
山林所得 | 山林伐採や立木の譲渡(売却など)による所得 |
譲渡所得 | 土地、建物、ゴルフ会員権など資産の譲渡(売却など)による所得 |
一時所得 | 生命保険から受け取る一時金や損害保険の満期返戻金、懸賞や福引きの賞金などによる所得 |
雑所得 | 以上のいずれにも該当しない所得。公的年金や原稿料印税(著述家、作家以外の人が受け取るもの)など |
なお、上記の所得に該当しない収入があったときには所得税はかかりませんが、別の税がかかることがあります。
たとえば、親などが亡くなって遺産相続をしたときには相続税、ほかの人からお金や土地、建物などをもらったときには贈与税の対象になります。
確定申告が必要な人は?
確定申告が必要かどうかは、おもに働き方によって決まります。
一般的には自営業やフリーランスの人は売上や収入を自分で税務署に申告するため、確定申告が必要です。
これに対して会社員・公務員の人は勤務先で年末調整を受けるため、基本的には確定申告をする必要はありません。
おもに以下に該当する人は、確定申告が必要です※3。
自営業やフリーランス
自営業やフリーランスとして、所定以上の収入がある人は確定申告が必要です。
1年間の売上や収入を自分で集計して、それを得るためにかかった経費などを差し引き、税の対象になる所得の額や税額を申告・納税します。
会社員・公務員で年収2,000万円以上
会社員や公務員の人が受け取る給料やボーナスは、基本的には受け取るタイミングで所得税が源泉徴収され、勤務先が納税手続きをしてくれます。
また1年間の収入にかかる所得税額は年末調整によって確定されるため、原則として確定申告は不要です。
しかし、給料収入が2000万円を超える場合には年末調整がされないことになっています。このため確定申告が必要です。
会社員・公務員で2か所以上から給料を受け取っている
2カ所以上の勤務先から給料を受け取っている場合も、確定申告が必要です。年末調整は1カ所でしか受けられないためです。
退職金を受け取って源泉徴収されなかった
勤務先を退職して退職金を受け取ったとき、一般的には源泉徴収によって所得税を納めますが、勤務先で源泉徴収の手続きがされていなければ、確定申告が必要です。
一定の公的年金を受け取っている
公的年金を受け取る場合には「公的年金等控除」という控除額までは所得税がかかりませんが、手取りの年金がそれを上回る場合には、確定申告が必要です。
ただし、収入が公的年金だけで、年金収入が400万円以下、かつその全額が源泉徴収されていれば、確定申告は不要です。
副業・投資などの収入がある
フリマアプリやネットオークション、民泊などで収入を得たときや、株式や投資信託などの取引で利益を得たとき※、その内容や利益の額、ほかの所得の状況によっては確定申告が必要になることがあります。
※NISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)による利益は確定申告は不要です。
確定申告したほうがメリットがあるケースも
確定申告の義務はないものの、あえて申告をすることで税の負担が軽くなる、すでに納めた税が戻ってくるなど、確定申告をした方が有利になるケースもあります。
確定申告では、源泉徴収などですでに納税した税金の過不足を精算して、払い過ぎた税額があれば戻してもらう「還付申告」もできるためです。
確定申告をした方が有利になる可能性があるのは、おもに次のような場合です。
一定の医療費を支払ったとき
1年間に一定額以上の医療費を自己負担したときには、所得税の「医療費控除」を適用できます。
医療費控除は確定申告でのみ適用できるため、年末調整で所得税を確定した人でも、確定申告をすることで給与やボーナスから源泉徴収された税の一部が戻ってくることがあります。
医療費控除について詳しくはこちらをご参照ください。
特定の寄附をしたとき
ふるさと納税をしたときや、特定の団体に寄付をしたときには、所得税の「寄附金控除」を適用できます。
寄附金控除は原則として確定申告で適用できるため※、年末調整で所得税を確定した人でも、確定申告をすることで給与やボーナスから源泉徴収された税の一部が戻ってくることがあります。
※会社員などがふるさと納税をした際には、確定申告を行わなくても寄附金控除を受けられる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」という仕組みもあります。
自宅の購入等で住宅ローンがあるとき
自宅を新築・購入・増改築(リフォーム)して、住宅ローンを借り入れたときには、年末時点での借入残高の0.7%を最長13年間にわたって所得税額から差し引くことができます。
「住宅借入金等特別控除」というものです※4。一般的に「住宅ローン減税」と呼ばれるもので、適用するためには確定申告が必要です。
※2022年1月1日~2025年12月31日の間に居住した場合
ただし、会社員・公務員で年末調整を受ける人は、控除を受ける最初の年のみ確定申告すれば、翌年からは年末調整で控除が反映されます。
しくみを知って、上手に確定申告を
このように、確定申告は1年間に得たさまざまな収入について、かかる税額を確定する手続きです。
必ず確定申告をしなければならないケースと、必須ではないものの確定申告をすることで納め過ぎた税が戻ってくるケースがあります。それぞれの要件は働き方やその年の収入の状況などによって異なりますから、ご自身に当てはまる要件を確認したいものです。
ただ、個別の状況で判断が異なることがありますから、詳しくはお近くの税務署や税理士などの専門家に確認すると安心です。
※この記事は2024年1月時点の税制、法令に基づいて執筆しています。記載された情報は随時見直しておりますが、最新ではないことがあります。
※一般の方に理解しやすいよう、税制等に関する表記を一部簡略化している箇所があります。正式名称や個別のケースに関わる厳密な数値については、専門機関等でご確認ください。
※1 出典:国税庁【確定申告・還付申告】
※2 出典:No.1300「所得の区分のあらまし」
※3 出典:国税庁「確定申告が必要な方」
※4 出典:国税庁「No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。