

高額療養費の自己負担限度額引き上げが見送り 今秋までに再調整へ

今年8月から見直しが予定されていた高額療養費の自己負担限度額引き上げについて、政府が見送りを決定しました。
引き上げにより患者の負担が増すことから、国民の理解が十分に得られていないとして、さらなる見直しが求められていました。
ニュースのポイント
- 高額療養費の自己負担限度額引き上げが見送りへ
- 年4回以上、医療費が高額になったときの特例も変更なし
- 70歳以上の外来特例も変更なし
高額療養費の自己負担限度額の引き上げは見送りへ
高額療養費は、1ヶ月にかかった医療費の自己負担が所定の限度額を超えたときに、超えた医療費が払い戻される健康保険の制度です。2025年8月から、限度額が段階的に引き上げられる予定になっていました。
しかし、引き上げにより病気やケガなどで長期療養をする人などの負担が増すことから、見直しの凍結やさらなる見直しを求める意見が挙がっていました。
これを受けて、政府は今年8月以降に予定していた見直し案を見送ることとしました。
今後、秋までに改めて制度の見直しについて検討する方針です。
1ヶ月の自己負担限度額は据え置きへ
見直し案では、今年8月から、1ヶ月の医療費の自己負担限度額を所得により+2.7%~+15%引き上げる予定でした。
2026年8月以降にはさらに所得区分を細分化し、一部の所得区分では自己負担限度額がさらに引き上げられることになっていました。
70歳未満で年収約510万円~約650万円の場合、現行ではおよそ8万円程度となっていた自己負担限度額が、見直し案では今年8月から8万8千円程度、来年8月からは10万円程度、再来年8月からは11万円を超えることとなっていました。
多数回該当も引き上げ見送りへ
1年間に医療費が高額になる月が3回以上あった場合には、さらに負担が抑えられる「多数回該当」という仕組みもあります。
この多数回該当についても、一定以上の所得者の自己負担限度額が引き上げられる予定でしたが、いったん見送られます。
70歳未満で年収約510万円~約650万円の場合、現行では多数回該当の自己負担限度額は44,000円ですが、見直し案では今年8月から48,900円、来年8月からは55,800円、再来年8月からは63,000円へ引き上げられる予定になっていました。
70歳以上の外来特例も変更なしへ
高額療養費制度には、70歳以上の一部の人を対象に、外来の自己負担を軽減するしくみ(外来特例)もあります。
個人ごとに、医療費のうち外来にかかった医療費のみでの限度額を設けています。
当初の見直し案では医療費が1~2割負担の人などを対象にこの外来特例の限度額も引き上げられる予定でしたが、こちらも見送られることになりました。
多数回該当とは
通常、年齢や所得に応じて定められた1ヶ月の自己負担限度額を超えた医療費を負担した場合に、高額療養費が支給されます。しかし、自己負担額が複数回にわたって自己負担限度額の上限に近くなると、患者さんにとって経済的な負担になりえます。
そこで、過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合に、4回目からの上限額が下がるのが「多数回該当」です。
現行制度では、70歳未満で年収約370万円~770万円の場合、4回目からの上限額は44,400円となっています。
この保険ニュースの解説者
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー