遺族厚生年金 子どもがいない現役世代は男女とも5年間受給へ 厚労省の見直し案
加藤 梨里
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー >プロフィールを見る
厚生年金に加入する人が亡くなったときに配偶者へ支給される「遺族厚生年金」について、受給期間や年齢要件の男女差が見直される見通しになりました。
厚生労働省は子どもがいない現役世代の人は男女ともに受給期間を5年間とする案を提示しています。今後、検討が進められる予定です。
遺族厚生年金の基本と合わせて解説します。
ニュースのポイント
- 子どもがいない現役世代の遺族厚生年金は男女とも5年間給付へ
- 現行では受給できる年齢や期間に男女差
- 子どものいる世帯への遺族年金は変更なし
配偶者の死亡時に60歳未満の人は男女とも5年間受給へ
見直されるのは、会社員などが亡くなったときに、その配偶者へ支給される遺族厚生年金です。
年金制度についての検討を行う厚生労働省の社会保障審議会が示した見直し案では、20代から50代で配偶者と死別した人に対して、性別を問わず遺族厚生年金の支給期間を5年間とすることが検討されています。
20代から50代に死別した子のない配偶者の遺厚の見直しの方向性
見直しの背景に共働き世帯の増加や賃金格差の縮小
厚労省によると、今回の見直しは社会経済状況の変化に対応するために行われるということです。
現行の遺族年金制度が創設された時期に比べ、近年は共働き世帯が増加し、男女の賃金格差が縮小したことから、制度上の男女差を解消する方向です。
現行の遺族厚生年金は、配偶者の年齢・性別により受給に差
現在の遺族厚生年金では、夫または妻が亡くなったときに子どもがいない場合、遺された人の性別や年齢によって、受給可否や期間が異なっていました。
夫と死別した妻:30歳以上は無期給付→有期給付へ
妻が夫と死別した場合、現行では妻の年齢が30歳未満までは年金の受給期間が5年間に限られています。一方で、30歳以上の妻には無期限にわたり年金が支給されていました。
見直しにより、これが59歳までは年金の受給期間を5年間の有期とすることが検討されています。60歳以上で夫と死別した妻は、現行通り無期限で支給されます。
ただし、59歳までの妻については生涯にわたり受給できる現行制度よりも受給期間が短くなるため、移行期間を設け、段階的に見直しを進めていく方向です。
また、遺族年金額を加算する、将来に受け取る老齢年金を増加させるなど、配慮措置の導入も検討されています。
妻と死別した夫:受給できる年齢制限55歳以上→緩和へ
夫が妻と死別した場合、現行では55歳未満まで遺族厚生年金の受給権がありません。
また、60歳までは年金が支給停止されており、実際に遺族厚生年金の受け取りを開始できるのは60歳以降とされていました。
見直しにより、59歳以下の夫に対しても5年間の遺族厚生年金が支給されることが検討されています。
実現すれば59歳以下の人については男女差なく、配偶者を亡くした場合には遺族厚生年金を5年間受給することになります。
現行制度における受給イメージ
子どものいる世帯の遺族厚生年金は変更なし
現在、見直しが検討されているのは現役世代の配偶者に対する遺族厚生年金です。
子どもがいる世帯では、子どもが18歳到達年度までは遺族厚生年金が現行通り支給されます。このため、子どもが18歳到達年度までは、世帯としての受給額は変わらない見込みです。
なお、遺族年金には遺族基礎年金もありますが、こちらも現在のところ見直しの予定はありません。
遺族厚生年金とは
遺族厚生年金は国の遺族年金制度の一つです。会社員や公務員などで、厚生年金に加入していた人が亡くなったときに、その配偶者または子どもなどに支給されます。支給される年金額は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額とされています。
出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」
出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
この保険ニュースの解説者
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー