自治体による認知症高齢者向け保険事業で高齢者とその家族を支援 2021年9月に三重県亀山市で開始
加藤 梨里
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー >プロフィールを見る
各地の自治体が、認知症の高齢者を対象にした個人賠償責任保険事業を相次いで導入しています。認知症の高齢者などが日常生活の中で起こした事故で損害賠償責任を負った場合に、補償を受けることができる制度です。
制度の内容や各地の導入状況について解説します。
ニュースのポイント
- 認知症の高齢者が賠償責任を負うリスクを補償する保険制度が全国の自治体で導入
- 全国初の事例は2017年の神奈川県大和市。今年9月には三重県亀山市も開始
- 住民に保険料の自己負担はゼロの地域も
全国で普及が進む、認知症高齢者向けの保険事業
認知症の高齢者などを対象にした個人賠償責任保険事業は、2017年に神奈川県大和市が全国の自治体で初めて開始したのを皮切りに、各地の自治体で導入されています。
導入地域は年々増加傾向にあり、東京都内ではすでに葛飾区、中野区、国分寺市、港区などが実施、2021年には昭島市でも開始されました。9月には三重県亀山市でも開始されます※1。また、兵庫県三田市など今年度中に新規実施に向けて準備している地域もあります※2。
認知症高齢者向けの地域の個人賠償責任保険の補償内容
各自治体が導入しているのは、認知症の高齢者が事故により他人にケガをさせたり、損害を与えたりして、本人やその家族が賠償責任を負った場合に支払われる保険です。「認知症高齢者等個人賠償責任保険事業」などの制度名で実施されています。
導入のきっかけになったといわれるのが、2007年12月に認知症男性が電車にはねられて亡くなった事故です。事故により生じた振替輸送などの損害賠償として、鉄道会社は遺族へ約720万円を請求しました※3。請求はのちに裁判で棄却されましたが、認知症の当事者とその家族を守り、安心して生活できる環境整備へのニーズが高まっていました。
この制度では、誤って線路に立ち入り電車の運行を止めてしまった・日常生活で他人にケガをさせてしまった・お店の商品を壊してしまったなど、認知症の人が過失により損害賠償責任を負った場合に、賠償額と同額の保険金を受け取れます。1事故ごとに補償限度額が設定されており、その額は1億円や3億円など、自治体により異なります。
事業を行う自治体に住む人を被保険者とし、自治体が賠償責任保険を契約します。保険料は自治体が全額負担し、個人の自己負担はないのが一般的です。
また、交通事故などでケガまたは死亡した際に保険金を受け取れる傷害保険や、偶然の事故で他人にケガをさせた結果、その相手が死亡してしまった際の見舞金補償などを用意する自治体もあるようです。
加入には、医師に認知症と診断されていること、自治体の高齢者見守りネットワークに事前登録していることなどが条件です。本人または家族が、地域の窓口に申請書類を提出して申し込みます(要件や申込方法の詳細は地域により異なることがあります)。
現時点でまだ制度がない地域でも、導入準備を進めている自治体もあるようです。今後、事業を実施する自治体のさらなる拡大が見込まれます。
個人賠償責任補償とは?
自転車で事故を起こして人にケガをさせてしまった、その結果、被害者に後遺障害が残ったり死亡してしまったりした場合には、加害者として法律上の損害賠償責任を負い、賠償金を請求されることがあります。その賠償金が保険からおりるのが「個人賠償責任補償」です。
個人賠償責任補償は、自転車保険のほか、自動車保険や火災保険、傷害保険などの特約、子どもが学校で加入する団体保険や、クレジットカードの付帯保険に含まれていることがあります。保険の種類や契約内容により、補償の上限額が2,000万円や1億円、2億円などと設定され、その範囲内で、実際に発生した損害賠償金額が支払われます。
これらの個人賠償責任補償では、自転車に乗っているときなど日常生活を広く補償対象にするものが多いですが、契約内容によっては、学校内や教育活動の間に起きた事故に限るなど、補償範囲が異なることがあります。
※1 出典:三重県亀山市「認知症等高齢者等個人賠償責任保険事業」
※2 出典:兵庫県三田市「三田市の認知症施策について」
※3 出典:裁判所「最高裁判所判例集」
この保険ニュースの解説者
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー