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更新:(公開:2016年3月29日)

介護費用はいくらかかる?負担を抑える公的介護保険のしくみと合わせて解説

執筆者

加藤 梨里
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー >プロフィールを見る

公的介護保険だけでは不十分?介護費用と将来への備え方をFPが解説

高齢になるにつれて心配になってくることのひとつが、介護にかかるお金ではないでしょうか。

介護費用は、公的な介護保険制度によって自己負担割合が原則1~3割に抑えられていますが、長い老後期間にわたってかかる費用は家計の負担になるおそれもあります。

介護にかかるお金と備え方について解説します。

要支援・要介護の認定者数は増加している

介護が必要な状態になる人は、人口の高齢化とともに増えています。

厚生労働省のまとめによると、要介護・要支援の認定者数は年々右肩上がりで増加しています※1

要介護・要支援認定者数の推移(年度末現在)
要介護・要支援認定者数の推移(年度末現在)
要介護・要支援認定者数の推移(年度末現在)

※要介護・要支援者数合計(経過的要介護含む)

出典:厚生労働省「令和3年度 介護保険事業状況報告(年報)」より筆者作成

介護にかかる費用は大きく分けて2つ

要支援・要介護状態になったときには、どれくらいのお金がかかるのでしょうか。

自宅で介護サービスを受けるか、施設を利用するか、また介護の認定度によって、費用のかかり方には違いがあります。

いずれの場合も大きく分けて、2つ挙げられます。

  1. 介護を要する生活を始めるときに係る初期費用
  2. 介護サービスを利用しながらの日常生活で定期的にかかる費用

1.介護でかかる初期費用

まず考えられるのが、介護が必要な状態になったときに一時的にかかる費用です。

一例として、手すりの取り付けや段差の解消のように、自宅をバリアフリーにするために行うリフォーム工事や、介護用のベッドや歩行器といった介護用品の購入など、介護に対応した生活環境を整えるための費用が挙げられます。施設に入所するには、入所費用も考えられます。

こうした初期費用は、必ずしも何度もかかるわけではありませんが、一度にまとまった出費になるようです。

生命保険文化センターの調査※2によると、介護の初期費用に自己負担したお金は平均で74万円です。

分布をみると、かかった費用はないケースから200万円以上までと、大幅な個人差があるようですが、数十万円や百万円単位の大きなお金がかかるケースが珍しくないことがわかります。

介護費用(一時的な費用の合計)の割合(2021年)
掛かった費用はない 15.8%
15万円未満 18.6%
15万~25万円未満 7.7%
25万~50万円未満 10.0%
50万~100万円未満 9.5%
100万~150万円未満 7.2%
150万~200万円未満 1.5%
200万円以上 5.6%
不明 24.1%

出典:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」より筆者作成

軽微なリフォーム費用などには、介護の初期費用の一部には公的な介護保険制度や地域の補助の対象になるものがありますが、収入や要介護度などにより受けられる補助が異なることがあります。

高額な出費を要する可能性も踏まえておきたいところです。

2.定期的にかかる介護費用

介護が必要な状態になると、入浴や食事、排泄の介助など、毎日の日常生活のなかで介護サービスをひんぱんに利用する可能性があります。

要介護状態が長く続くと、こうした費用が定期的にかかり続けることになります。介護保険施設や老人ホームなどでは、ほかに居住費や食費なども継続してかかります。

このような定期的にかかる介護費用の平均は、月額8.3万円です※2

こちらも分布を見ると自己負担費用がないケースから月に15万円以上まで、大幅な差があることがわかります。

介護費用(月額)の割合(2021年)
支払った費用はない 0.0%
1万円未満 4.3%
1万~2万5千円未満 15.3%
2万5千~5万円未満 12.3%
5万~7万5千円未満 11.5%
7万5千円~10万円未満 4.9%
10万~12万5千円未満 11.2%
12万5千~15万円未満 4.1%
15万円以上 16.3%
不明 20.2%

出典:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」より筆者作成

家族が中心に介護をするのか、介護サービスを利用するか、要介護度がどの程度かによって、必要な介護サービスの量や内容、お金のかかり方に違いが生じることもあるでしょう。

介護にかかる費用の総額

介護生活では合計でどれくらいのお金が必要なのでしょうか?上記、初期費用と定期的にかかる費用の平均額から、総額を計算してみましょう。

高齢期に要介護・要支援に認定されると、その状態が長く続くケースが多いようです。

平均は61ヶ月と、約5年間におよびます※2。分布を見ると、最も多いのは4~10年で、10年以上というケースも2割近くあることがわかります。

介護期間の割合(2021年)
6ヶ月未満 3.9%
6ヶ月~1年未満 6.1%
1年~2年未満 10.5%
2年~3年未満 12.3%
3年~4年未満 15.1%
4年~10年未満 31.5%
10年以上 17.6%
不明 3.0%

出典:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」より筆者作成

かりに、初期費用が1回、定期費用が介護期間の平均である61.1ヶ月にわたってかかり続けるとすると、介護の自己負担費用の総額は以下になります。

74万円(初期費用)+8.3万円(定期費用月額)×61.1ヶ月(介護期間)=581.1万円

介護費用には、総額で1人あたり600万円近くのお金がかかる計算になります。

介護費用の自己負担を抑える、公的介護保険のしくみ

公的介護保険制度には、介護でかかる費用の自己負担を抑えるためのしくみがあります。

所得や利用する介護サービスの内容などにより、活用できるしくみや範囲が異なります。

介護サービスの自己負担割合は原則1~3割

介護保険制度では、65歳以上(または40歳以上で特定疾病が原因)で要介護・要支援の認定を受けた人は、介護サービスを利用したときの自己負担割合が1割(一定以上の所得の場合は2割または3割)になるのが基本です。

介護サービスの内容は幅広く、自宅で利用する居宅サービスや、日帰りで施設などを利用するサービス、介護施設に入居・入所して利用するサービスなどがあります。

サービスの種類によって、自己負担のしくみが一部異なります。

居宅サービスは利用限度額を超えると全額自己負担

訪問介護や訪問看護など、自宅で利用する居宅サービスを利用する場合には、要介護・要支援度に応じて、1ヶ月に利用できるサービスの量が定められています。

これを利用限度額・支給限度額といい、自己負担割合が1~3割に抑えられるのはこの範囲内です。

1ヶ月にそれ以上のサービスを利用すると、超えた部分の費用は全額が自己負担になります。

支給限度額は要介護度が高いほど高く設定されています。要介護度が高いと、1~3割負担で利用できるサービスの量が多くなっています。

居宅サービスの1ヶ月の利用限度額※3
認定ランク 介護保険
サービス
支給限度額
(月額)
非該当 0円
要支援1 介護予防
サービス
50,320円
要支援2 介護予防
サービス
105,310円
要介護1 介護
サービス
167,650円
要介護2 介護
サービス
197,050円
要介護3 介護
サービス
270,480円
要介護4 介護
サービス
309,380円
要介護5 介護
サービス
362,170円

出典:厚生労働省介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」

施設のサービスには所得・資産基準を満たすと補助がある

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)に入居している、ショートステイ(短期入所生活介護)を利用するなど、介護保険施設を利用する場合には、各施設が定める料金がかかります。

個室か相部屋かなどによって、自己負担額が異なります。

このうち居住費や食費の一部は、収入や預貯金などが一定以下の人を対象に負担軽減のしくみがあります。

年金収入や資産額が一定以下の場合に、1日あたりの負担限度額が定められています。負担限度額を超える自己負担が生じないようになっています。

一例として、食費の自己負担限度額は、特別養護老人ホームに入所していて年金収入等が80万円超120万円以下の場合、1日あたり650円です※4。同じ収入で、ショートステイで食事を利用した場合には、1日あたりの負担限度額は1000円です。

介護保険施設での食費の自己負担限度額(日額)
  施設入居者 ショート
ステイ利用者
年金収入等
80万円以下
(第2段階)
390円 600円
年金収入等
80万円超
120万円以下
(第3段階①)
650円 1,000円
年金収入等
120万円超
(第3段階②)
1,360円 1,300円
補足給付の対象
ではない方
負担額は、施設と利用者の契約
により決められています。

※公的年金等の収入金額(非課税年金を含みます)+その他の合計所得金額

出典:厚生労働省「介護保険施設における負担限度額が変わります」

介護保険施設での食費・居住費の補助対象となる資産額の認定基準(上限額)
  単身 夫婦
年金収入等
80万円以下
(第2段階)
650万円 1,650万円
年金収入等
80万円超
120万円以下
(第3段階①)
550万円 1,550万円
年金収入等
120万円超
(第3段階②)
500万円 1,500万円

※公的年金等の収入金額(非課税年金を含みます)+その他の合計所得金額

出典:厚生労働省「介護保険施設における負担限度額が変わります」

1ヶ月の自己負担額には「高額介護サービス費」の上限額がある

在宅介護・施設介護ともに、上記のしくみを利用しても自己負担額が高額になったり、サービス費用の全額が自己負担になったりした場合に受けられる補助もあります。

「高額介護サービス費」というしくみで、1ヶ月の自己負担額が所定額を超えると、超えた分が補助されます。

高額介護サービス費では、所得に応じて自己負担の上限額が定められています。年金などの収入が770万円未満で、住民税が課税されている世帯では、1ヶ月44,000円です※5

これを超えて介護費用を負担した場合には、市区町村に申請すると超過分が払い戻されます。

ただし、食費や居住費、車いすや介護ベッドなど福祉用具の購入費などは対象外です。また、公的介護保険の対象外のサービスも、費用の全額が自己負担になります。

高額介護サービス費の負担限度額
区分 負担の上限額(月額)
課税所得690万円
(年収約1,160万円)以上
140,100円
(世帯)
課税所得380万円
(年収約770万円)~
課税所得690万円
(年収約1,160万円)未満
93,000円
(世帯)
市町村民税課税~
課税所得380万円
(年収約770万円)未満
44,400円
(世帯)
世帯の全員が市町村民税非課税 24,600円
(世帯)
  前年の公的年金収入金額
+その他の合計所得金額
の合計が80万円以下の方
24,600円(世帯)
15,000円(個人)
生活保護を
受給している方
15,000円
(世帯)

出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

公的介護保険制度を知って、介護への備えを検討

介護サービスは、要介護・要支援状態に応じて、また本人や家族の希望に応じて幅広い内容から利用することができます。

介護が必要になったときには、どのようなサービスをどれくらいの頻度で利用するかを、介護の専門家であるケアマネージャー(介護支援専門員)などと相談し、「ケアプラン」を作成しながら決めていきます。費用の目安や利用できる補助制度などについても確認できるでしょう。

あらかじめ、介護費用の目安や公的介護保険のしくみを知っておくと、実際に介護サービスを利用するときにもスムーズです。健康なうちから、介護費用に備えておくとさらに安心ではないでしょうか。

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※1 出典:厚生労働省「令和3年度 介護保険事業状況報告(年報)」
※2 出典:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」
※3 出典:厚生労働省介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
※4 出典:厚生労働省「介護保険施設における負担限度額が変わります」
※5 出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

  • 執筆者プロフィール

    ファイナンシャルプランナー 加藤 梨里

    加藤 梨里(かとう りり)

    マネーステップオフィス株式会社代表取締役
    CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
    マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。
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