保険の対象になる被保険者が亡くなると、生命保険の保険金がおります。保険金を受け取るのはあらかじめ指定した「受取人」です。
しかし、もしも被保険者が死亡する前に受取人がすでに亡くなっていたら、誰が受け取るのでしょうか。
ここでは、そんな場合の保険金の受け取りの一例をお話しします。
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受取人がすでに死亡していたら、相続人が受け取る
被保険者が亡くなる前にすでに受取人が死亡していると、被保険者が亡くなって保険金を受け取ろうとしても、本来の受取人がいないことになってしまいます。
その場合は、受取人の相続人のうち生きている人が代わりに受け取るのが原則です。すでに亡くなった受取人の代わりに受け取る保険金は、その相続人のなかで均等に分けることになっています。
通常の遺産相続では、民法で定められた「法定相続割合」という割合に応じて遺産を分割し、たとえば母は2分の1、子どもは4分の1など相続人によって受け取り割合が異なります。
しかし保険金の受け取りにおいては、保険法により、保険金額を相続人の人数で割り、相続人はそれぞれ同じ金額を受け取ることになります。
それでは実際に、保険金受取人が先に死亡してしまったらどうなるのでしょうか?実例をもとに、A夫さんのケースを使ってみてみましょう。
【実例】妻に名義変更を失念していた男性(A夫さん)の例
A夫さんは、独身時代に生命保険(死亡保険金2,400万円)に加入し、その保険の対象となる被保険者をA夫さん自身、受取人を母Xさんにしていました。母Xさんはシングルマザーで、父親はいません。
結婚後、本来は妻B子さんに受取人の名義変更手続きをするはずでしたが、A夫さんはそれを失念したままにしていました。
やがて、2015年に母Xさんが亡くなり、A夫さんの生命保険の受取人が死亡した状態になりました。しかしこのときも、A夫さんは特に手続きをしないままにしていました。
その後、2017年に、A夫さん自身も亡くなりました。A夫さんが亡くなったことによって、生命保険金2,400万円がおりますが、この保険金は、誰が、いくら受け取るのでしょうか?
受取人(母Xさん)がすでに亡くなっていた場合には誰が受け取る?
さきに解説したように、被保険者が死亡する前に受取人が死亡した場合には、本来受け取るはずだった受取人の相続人の全員が、保険金を受け取ることになります。
この原則によれば、死亡保険金の受取人であった母Xさんの相続人全員が、A夫さんの死亡保険金を受け取ることになります。
受取人の相続人が保険金を受け取ることに
母Xさんが亡くなったときの相続人 は A夫さん、妹Yさん、弟Zさんの3人でした。ですので、3人でA夫さんの死亡保険金を受け取ることになります。
ただ、このうち弟Zさんはすでに他界しています。また、A夫さんもこの度亡くなったので、母Xさんの相続人のうち、A夫さん死亡時に生きているのは妹Yさんのみです。
ですから妹Yさんは、原則通り母Xさんの相続人として、保険金を受け取ります。
相続人もすでに死亡の場合はその相続人に引き継がれる
しかしA夫さんには、妻B子さんと娘C子さんの2人の家族がいます。妻B子さんと娘C子さんは、A夫さんが亡くなって、A夫さんの相続人になりました。
そのため、A夫さんが母Xさんから相続した権利を引き継ぐことができます。
つまり、母Xさんが受け取るはずだった保険金を受け取る権利は、A夫さんに相続されていたわけですが、A夫さんが亡くなったことによって、その権利は妻B子さんと娘C子さんにさらに引き継がれることになります。
保険金の受取割合は均等になる
ですから、A夫さん死亡によっておりる死亡保険金については、妹Yさん、妻B子さん、娘C子さんの3人が受取人となります。
A夫さんがかけていた保険金は2,400万円でした。法律上、保険金の受取割合は均等とされますので、妹Yさん、妻B子さん、娘C子さんの3人で分けます。
つまり、それぞれが受け取る保険金額は
2,400万円×1/3=800万円となります。
受取人が死亡した場合は、早めに変更手続きを
このように、受取人が被保険者よりも先に亡くなった場合は、当初に指定した受取人以外の人が死亡保険金を受け取る可能性があります。
想定外の人が保険金を受け取るのを避けたいと考えるなら、受取人が先に亡くなった時点で保険会社に早めに連絡をして、受取人の変更手続きをしておくことが大切です。
保険会社所定の「保険金受取人変更届」という書類がありますので、これに保険契約者が記入して保険会社に提出します。
保険金の受取人はライフステージに合わせて見直しを
支払われる死亡保険金は、保険契約者のものではなく、保険金受取人のもの。保険金受取人の固有の財産です。保険金受取人が保険金の請求を行い、保険金受取人へ保険金が支払われます。
したがって、死亡保険金の受取人は「最も受け取って欲しい人」にしておく必要があります。「最も受け取って欲しい人」は、ライフステージとともに変わっていきますし、今回の事例のように、保険金受取人が先に死亡してしまうこともありえます。
保険契約はライフステージにあわせて、または定期的に見直すことが大切です。その際には「誰に受け取って欲しい保険金なのか」もぜひチェックしてみてください。
執筆者プロフィール
CFP(R)認定者、宅地建物取引士
監修者プロフィール
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー