働いている人が新型コロナウイルス感染症にかかったとき、心配なことのひとつが仕事や給料、収入のことではないでしょうか。新型コロナの陽性と判明すると入院や隔離生活をすることになり、仕事を休む必要も生じます。
そんなとき、給料は受け取れるのか?休業補償は受け取れるのか?いつまで受け取れるのか? 新型コロナに感染したときの給料や休業補償のしくみを解説します。
※この記事は2022年9月26日現在の情報を元に制作しています。
記事の目次
コロナに感染すると就業制限の対象になる
現在、新型コロナに感染すると、都道府県知事による就業制限の対象になることが法令で定められています。感染症にかかっている人が仕事をすることで、職場などを通してまん延させる恐れがあるため、リスクが低くなるまでの期間は仕事をさせないようにするものです。
コロナで仕事を休むのはいつまで?
新型コロナの陽性が判明すると、入院措置や宿泊療養・自宅療養をすることになります。療養期間中はアルバイトやパートを含め、対人を伴う仕事はできません。ただし、人と接触することがない在宅ワークは制限の対象外です。
就業制限の期間は、症状の有無によって異なります。発熱や咳などの症状がある人は、発症日から7日間経過し、かつ症状が軽快後24時間経過するまでです(入院や高齢者施設に入所している人を除きます)。7日を経過する前に症状が改善した場合には、軽快から24時間以上後と、さらに24時間以後の2回、PCR検査などを受けて、いずれも陰性が確認されれば、期間が短縮されます。
無症状でも一定期間は職場復帰ができないことも
無症状で陽性だった場合には、検査日から7日間経過するまでが基本です。
要件を満たすと就業制限が解除され復職することができますが、実際の職場復帰は勤務先が判断します。
就業制限中に給料が払われるかは会社が判断
就業制限がかかって仕事を休む場合、給料を受け取れるかどうかは、お勤め先のルールや判断によります。会社に病気休暇・特別休暇制度があればそれを活用し、有給で休めることがあります。しかし、制度がなければ年次有給休暇を消化したり、無給の病欠扱いになるケースもあるようです。
厚生労働省は企業などに対して「休業期間中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心し休むことができる体制を整えていただくようお願いします。」と呼びかけていますが、新型コロナの感染者に対して給料を支給するかどうかや、有給休暇を取得させるかどうかなどについて、一律のルールは設けていません。
コロナに感染して仕事を休んだときの給料(休業)補償は?
就業制限によりやむを得ず仕事を休み、給料が出なかった場合、それを直接に補てんする公的な制度は残念ながらありません。就業制限は法令によって都道府県の指示で行うもので、勤務先の責任にはあたらないため、会社からの補償や手当金の支給も義務づけられていません。
健康保険から傷病手当金を受け取れる
しかし、健康保険の傷病手当金の対象にはなりえます。これは新型コロナに限らず病気やケガで仕事を休んだときに、おおよその給料(標準報酬月額)の3分の2相当の金額を、日割りで受け取れる制度です。休業が4日以上連続したとき、4日目から対象になります。支給開始から最長で1年6ヶ月まで受け取ることができます。
ここで対象になるのは、新型コロナに感染した後の期間だけではありません。発熱がある、咳がでている、頭痛がするなど体調不良で休みを取り始め、のちに陽性と判明して就業制限期間中まで休んだ場合には、診断前の期間も含まれることがあります(医師の意見書などが必要です)。
無症状感染でも傷病手当金の対象になる
無症状感染も、傷病手当金の対象になります。自覚症状がないものの陽性と判明し、仕事に従事できない場合には、傷病手当金が支給される可能性があります。症状がなければ入院はせずにホテルでの宿泊療養や自宅療養をしますが、療養のために仕事ができないときには手当の対象になるのが基本です。
なお、感染が判明する前に「37.5度以上の発熱があったら休業すること」「咳が出ているときは休業すること」など、一定の症状を基準に会社のルールで休んだ場合には、会社の休業手当の対象になることがあります。
詳しくは下記の記事もご参照ください。
自営業・フリーランスでも傷病手当金を受け取れる場合も
傷病手当金を受け取れるのは会社員や公務員など、お勤めの方に限られます。自営業やフリーランスの人には傷病手当金の制度がなく、手当を受け取ることができません。
ただし、小規模な事務所や個人事務所に勤めている人には新型コロナでの特別対応があります。通常、健康保険制度のない事業所で働いている人は自分で国民健康保険に加入し、傷病手当金がありません。しかし、国民健康保険に加入していて勤め先から給料を受け取っている人が、新型コロナに感染して療養のために仕事ができなかったときに限り、傷病手当金が支給されるしくみがあります。 詳しくは下記の記事もご参照ください。
業務上でコロナに感染したら労災保険の対象に
感染が仕事の業務や通勤にかかわるものであれば、労災保険の対象になります。上記の傷病手当金は業務外での病気やケガが対象になりますが、業務に関連した病気は労災保険の給付対象になるのです。
労災保険に加入している人なら、正社員だけでなく、アルバイト、パートの人も対象です。
医療費が無料になる
業務上で新型コロナに感染した場合、労災保険指定の医療機関で治療を受けると医療費が無料になります。もともと、新型コロナの医療費は公費負担になっており誰でも自己負担がゼロになっていますが、労災保険にも医療費が無料になるしくみがあります。
休業補償を受け取れる
労災保険には、療養のために仕事を休んだときに支給される「休業補償」があります。給付されるのは、休業1日あたり、発症前3ヶ月間の賃金を日割りした金額の8割です。業務上・通勤による病気やケガで仕事ができず、給料がでなかったときに、休業4日目から、その要件を満たす限りずっと支給されます。
労災保険の対象になるのは、新型コロナへの感染経路が仕事上や通勤上であるときや、仕事の特性上、感染リスクが高いと考えられる業務に就いている人です。たとえば、医師や看護師などの医療従事者のほか、病院内で働く事務員や清掃員、介護施設で働く職員、飲食店や小売店のスタッフ、保育園の保育士などです。感染経路が不明でも、感染したときの状況から労災と認定されるケースもあります。
また、不特定多数の人と接触する職種以外でも、建設現場で働く人や、事務職の会社員の人が職場の同僚から感染したケースなどで労災認定されることがあるようです。
コロナに感染したら、休業制度や手当について職場に相談
もしも新型コロナに感染したとき、給料や手当の取扱いは、感染したときの状況や会社の判断などによって複数のパターンがあります。実際に給料が支払われるか、手当の対象になるかどうかは、個別の状況に応じて勤務先、健康保険組合、労働基準監督署など各関係機関がそれぞれ判断します。
制度の対象になるのか、いつ仕事に復帰できるのかなどは、勤務先と相談しながら決まっていくこともあるでしょう。感染が判明すると体調が優れない中さまざまな対応に追われるかもしれませんが、利用できる制度を活用し、少しでも安心できるとよいですね。
※この記事は2022年9月26日現在の情報をもとに制作しています。最新の情報や個別具体的な取り扱いについて詳しくは、各機関にご確認ください。
※1 出典:厚生労働省 「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」
※2 出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症 陽性だった場合の療養解除について」
※3 出典:厚生労働省「職場で新型コロナウイルスに感染した方へ」
-
執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。