働いている人が新型コロナウイルスにかかって仕事を休んだ場合、生活面で特に心配なことのひとつが収入ではないでしょうか。病気で仕事を休んだら、収入を補てんする公的な制度に「傷病手当金」がありますが、新型コロナウイルスにかかったときもこの対象になります。
また、国民健康保険に加入している人には従来は傷病手当金がありませんでしたが、新型コロナウイルスについては特例で一部の人に支給される制度があります。
そこで、新型コロナウイルスにかかったときに「傷病手当金」を受け取る要件やしくみについて解説します。
※新型コロナ関連の特例・制度等は常に情報が更新されています。本記事の内容は最新でないことがありますので、必ず最新の情報と合わせてご確認ください。
※傷病手当金の申請・個別具体的な詳細については、ご加入の健康保険(勤務先・地域)の窓口にお問い合わせください。
記事の目次
新型コロナウイルスにかかったら傷病手当の対象に
新型コロナウイルスにかかって、治療のために仕事を休んだら、加入している公的な健康保険から「傷病手当金」を受け取れることがあります。
受け取り方や金額などのしくみは、加入している制度によって異なります。おおまかには、会社員や公務員で健康保険・協会けんぽなどに加入している人と、個人事務所や零細企業で働いていて、国民健康保険に加入している人の2つのパターンがあります。
会社員・公務員の場合
会社員や公務員で健康保険・協会けんぽ・公務員共済などに加入している人は、病気やケガで仕事を休んだときに、所定の要件を満たすと「傷病手当金」を受け取れることになっています。新型コロナウイルスにかかったときも、病気のひとつとして傷病手当金の対象になります。
傷病手当を受け取れるのはどんな時?
新型コロナウイルスにかかった場合には、入院して治療を受けるほか、医療機関の状況や症状によっては自宅で療養をするケースもあります。そのようなときには傷病手当金を受け取れるのでしょうか?
厚生労働省によると、新型コロナウイルスにかかって傷病手当金の対象となる可能性があるのは、おもに以下の例があります。
自宅療養の場合
傷病手当金は本来、病気やケガのために仕事をできない状態になったときに支給されるため、入院することが要件ではありません。また、病気の種類を限定するものでもありません。
ですから、新型コロナウイルスにかかり、入院したときばかりでなく、自宅や所定の宿泊施設で療養をすることになった場合にも、仕事を休んだ日数分は傷病手当金の対象になり得ます。
この場合、当初は基本的には医師の診察を受けて、仕事に就けない状態であることを証明する「意見書」が求められていましたが、感染拡大に伴って必要書類が一部簡易化されているようです。
一例として協会けんぽの場合、2022年8月現在は、傷病手当金の請求日数が14日未満の場合には医師の証明書類に代えて厚生労働省の新型コロナ感染者管理システム「My HER-SYS」から出力できる「療養証明書」や、医療機関・検査機関が発行する検査結果通知などで、傷病手当金を申請できることとされています。
コロナの診断前から休んだ場合
また、発熱が4日以上続いている、咳が出ているなどの自覚症状が出ているものの、病院が混み合っていてすぐに受診できなかった、新型コロナウイルスの診断をするためのPCR検査がすぐに受けられなかったようなケースでは、診断がつく前から体調不良で仕事を休むことがあるでしょう。
そのような場合にも、後で医師が診察をして、初診日よりも前から仕事に就けない状態だったと認められれば、その期間も傷病手当金の支給日数になりえます。
無症状だったが陽性だった場合
さらに、自覚症状はないもののPCR検査の結果、陽性と判明した場合にも、療養のために仕事を休んだら、傷病手当金の対象になります。
濃厚接触者になったときの自宅待機は手当の対象外
一方で、自分ではなく家族や同居している人が新型コロナウイルスにかかって、濃厚接触者になったために自宅待機・自宅隔離を命ぜられ、仕事を休んだときには、傷病手当金は支給されません。
あるいは、勤務先で感染者が出て会社全体が休業して仕事を休んだときも、傷病手当金の対象にはなりません。その代わり、これらについては勤務先の休業手当などを受け取れることがあります。
受け取れる金額はいくら?
受け取れる金額のしくみは、ほかの病気やケガで休んだときと同様です。「標準報酬月額」といって、直近12ヶ月分の月給の平均を日割りした金額、つまり、おおよその日給をもとに決まります。この2/3が、「傷病手当金」として休んだ日1日ごとに支給されます。
新型コロナウイルスにかかって治療を受けたり、自宅療養をしたりして、3日以上連続で仕事に出勤できなかったら、4日目から受け取れます。
受給の要件や金額計算の詳細は、下記の記事をご覧ください。
傷病手当の申請方法
会社員や公務員の人が傷病手当金を受け取る際には、勤務先を通して加入している健康保険組合や協会けんぽなどに申請します。
所定の申請書を自分で記入するとともに、仕事に就けなかった日数や休業前のお給料の金額を勤務先に証明してもらう書類や、仕事を休む原因になった病気やケガについて病院の医師に記入してもらう「意見書」など、医療機関や検査機関などから発行される証明書をそろえて、勤務先に提出します。すると、勤務先が手当金の支給の手配をしてくれます。
なお、手続きは郵送でもできることがあります。おもに中小企業が加入している協会けんぽの場合は、申請書をホームページからダウンロードして、記入したものを郵送することで受給の手続きができます。詳しくは、加入している健康保険組合や勤務先の担当窓口に確認してみましょう。
個人事務所の場合
お勤めの方の中には、勤務先が個人事務所で、社会保険に加入していない場合があります。株式会社や有限会社などの法人は必ず、従業員を健康保険や厚生年金に加入させる義務がありますが、個人経営で社員数が5人未満の事業所では任意になっているためです。この場合は、自分でお住まいの地域の国民健康保険(国保)に加入しているでしょう。
国民健康保険(国保)に加入している人には、通常は傷病手当金がありません。しかし特例として、新型コロナウイルスにかかって仕事を休んだ場合には、各市町村が条例によって支給の制度を設けていることがあります。
傷病手当を受け取れるのはどんな時?
国民健康保険(国保)に加入している人への傷病手当金は、新型コロナウイルスの拡大を受けて、全国の自治体が期間限定の措置として給付制度を設けています。
地域によって受給できる要件に細かな違いがある可能性がありますが、一般的には以下の場合に対象になります。
つまり、個人経営の事務所で働いてお給料を受け取っている従業員で、新型コロナウイルスにかかったり、発熱やせき、倦怠感などの自覚症状があって仕事を休んだ場合には、会社勤めの人と同じような傷病手当金を受け取れるわけです。
濃厚接触者になったときの自宅待機は手当の対象外
なお、新型コロナウイルスを疑う症状があったもののPCR検査の結果が陰性だった、別の病気だった場合も対象になる可能性があります。ただし、家族や同僚が感染して、自分は濃厚接触者だが陰性だった場合には対象にならないようです。
受け取れる金額はいくら?
個人経営の事務所に勤めて国保に加入している人が新型コロナウイルスにかかって仕事を休んだ場合には、会社員などが受け取る傷病手当金に準じた計算式で手当を受け取れます。
詳細は各自治体の条例によって定められており、地域によって異なる可能性がありますが、「直近の継続した3ヶ月の給与収入」をもとに支給額を次の式で定めているところが多いようです。
国保加入者への傷病手当金の支給額
※上限:日額30,887円 給与等の全部又は一部を受け取ることができる場合は、支給額が調整されます。
出典:厚生労働省「新型コロナウイルスに感染した被用者等に対する傷病手当金の支給について」
つまり、直近3ヶ月のお給料収入を1日あたりで平均した金額の2/3を、傷病手当金として受け取れるわけです。
この傷病手当金は、新型コロナウイルスにかかって3日以上連続して仕事を休んだ場合などに、4日目から日割りで受け取れます。また、新型コロナウイルスにかかわる特例であるため、休業の時期が自治体の定める期間中であることも要件です。休業4日目が対象期間中であれば、もしも入院が長引いた場合などには、最長1年6ヶ月間支給されます。また、今後の国内での感染状況に応じて、対象期間が変更される可能性があります。
傷病手当の申請方法
国保加入者への傷病手当金の申請は、お住まいの地域の窓口で受け付けています。感染防止のために原則として郵送受付としているところもあります。申請の際には、事前に必ず電話で確認するように呼びかけている自治体が多いようです。受給の要件に該当するか、受け取れる金額はいくらか、必要書類は何かなど、詳しい案内をしてもらえるでしょう。
なお、申請には時効があります。傷病手当金の支給申請ができることになった日から2年間とされている自治体が多いようです。
また、国保向けの傷病手当金の支給は新型コロナに限った特例措置で、期間限定のものです。
措置が終了すると受け取れなくなることがありますので、最新の情報を確認しましょう。
多くの自治体では、公式ホームページで傷病手当金の案内を掲示しています。それも参考に、詳しいことはお住まいの地域の窓口に問い合わせてみましょう。
自営業・フリーランスの場合
国民健康保険に加入している人でも、対象になるのはお勤めの人のみです。国保に加入している人の中には、自分一人で事務所を構えている人や、フリーランスとして個人で仕事をしている人も多いですが、残念ながらこの場合には傷病手当金の対象にはなりません。その代わりに、新型コロナウイルスの影響で収入が下がったときに受けられる補助制度の対象になる可能性があります。
ただし自営業の人でも、法人成りしていて自分が事業主になっており、法人から自分へ給料を支給している人は支給されるケースがあるようです。
細かな要件は、お住まいの地域の窓口で確認しましょう。
傷病手当で収入の2/3をカバーできる
このように、新型コロナウイルス感染症にかかって仕事を休んだ場合には、会社員でも、個人経営の事務所に勤めている人でも、おおよその収入の2/3は傷病手当金で補助してもらえます。特に国民健康保険に加入している人には、これまで傷病手当金がありませんでしたが、新型コロナウイルス感染症については特例として、会社員とほぼ同様の補助を受けられることがあります。万が一感染した、感染が疑われる場合には、受給を検討してみましょう。
※この記事は2022年8月31日時点での情報をもとに制作しています。
※1 出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について」
※2 出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者等に対する傷病手当金の支給について」
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執筆者プロフィール
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザーマネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。