元気で毎日を過ごせれば何よりですが、病気やけがにより仕事ができないという状況は起こりうるリスクとして想定しておきたいものです。さらに、働けない期間が長引いた場合には、収入と支出のバランスが崩れる可能性もあります。そんな“働けないリスク”に備える保険として注目されているのが「就業不能保険」です。ただし、加入時に悩みやすいのが「給付金月額をいくらに設定するか」という点かもしれません。今回は、公的保障や生活費とのバランスを踏まえつつ、就業不能保険の必要保障額の考え方を解説します。
働けなくなったとき、毎月いくら必要になる?
病気やけがによる入院や手術、通院に備えるため「医療保険」に加入している方は多いものの、自宅療養や職場復帰が難しい場合など“働けないリスク”についての対策は見落としがちです。
病気やけがで長期間働けず、収入が減る、もしくは途絶えるといった場面でも、基本的に日常生活費の支出は発生します。そこで“働けないリスク”に対する備えとして候補となるのが「就業不能保険」です。
「就業不能保険」は、病気やけがで長期間働けなくなった場合に、収入減少による生活費不足を補うための保険です。主に生命保険会社が取り扱っており、所定の就業不能状態に該当すると、毎月一定額の給付金を受け取れるタイプが一般的です。
なお、「就業不能保険」のほか、「収入保障保険」や「所得補償保険」など似たような名称の保険商品があります。それぞれ目的が異なりますので注意が必要です。
- 就業不能保険… 働けなくなった場合の生活費に備える保険(〇歳、〇年など長期的)
- 所得補償保険… 働けない場合の実際の所得減少を補う損害保険(1年など短期)
- 収入保障保険… 亡くなった後の家族の生活費に備える保険
働けなくなったときに毎月いくら必要になるのかについて検討するためには、まずは、現時点で毎月どのくらいの生活費が発生しているのか把握することから始めましょう。
- 家賃・住宅ローン
- 食費
- 水道光熱費
- 通信費
- 保険料
- 教育費
- 自動車関連費用
- 医療費
などそれぞれの生活を振り返って書き出してみましょう。
そのうえで、「働けなくなったとき、毎月いくら必要か」について考えてみます。
必要な金額を考えるうえで、共働き世帯の場合には、パートナーの収入を加味する必要がありますし、住宅ローンの団体信用生命保険で返済が減額や免除される特約を付加しているケースもあるかもしれません。
なお、長期療養では、治療やリハビリ、通院交通費による追加支出や家事代行サービスなどが必要となるケースもあります。
家族構成やライフスタイル、それぞれの事情にもよるため、あくまでも目安ですが生活費の8割から9割程度、例えば、毎月の生活費が30万円であれば、働けなくなった後も24〜27万円程度は必要になる想定です。
働けないときに受け取れる公的給付の種類と金額
日本においては、公的医療保険制度や社会保障制度が充実していると言われています。そのため、働けなくなった場合でも一定の給付を受けられる可能性があります。ただし、働き方によって受け取れる制度には大きな違いがあります。
会社員の場合
会社員など健康保険の被保険者が業務外の病気やけがで仕事を休み、給与が支払われない場合には、健康保険から「傷病手当金」を受け取れる可能性があります。
傷病手当金は、業務外の病気やけがで働けず、給与が支払われないときに受け取れる制度です。医師が就業不能と判断した場合に支給対象となり、連続3日の待期後4日目から通算で最長1年6ヶ月まで支給されます。
給与月額が30万円の会社員であれば、3分の2程度の月20万円前後が支給されるイメージです。
正確には、「支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3 ×支給日数」で計算されます。計算根拠となる標準報酬月額は、手取り金額と差異があることに注意が必要です
また、症状が重く、一定の障害状態に該当する場合には「障害年金」の対象になるケースもあります。第2号被保険者である会社員の場合は、障害基礎年金に上乗せして、障害厚生年金を受給することができます。
会社員の公的制度による給付金イメージ
自営業・フリーランスの場合
国民健康保険に加入中の自営業やフリーランスの場合、原則として、会社員のような傷病手当金制度はありません。
また、症状が重く、一定の障害状態に該当する場合には「障害年金」の対象になるケースがあります。ただし、上記の会社員の場合と異なり、障害基礎年金のみの支給となります。障害基礎年金は、障害等級が1級か2級の場合のみの支給となるため、3級の場合には受け取ることができません。軽度のうつ病や腰痛など、「働けないものの、障害年金には該当しない」というケースも少なくありません。
個人事業主・フリーランスの公的制度による給付金イメージ
公的給付だけでは足りない?不足額を確認する
就業不能保険の検討にあたっては、「働けなくなったときに必要な生活費」から「公的給付で受け取れる金額」を差し引いた「不足額」を確認します。
手取り月収30万円の会社員の場合
例えば、手取り月収30万円の会社員を想定してみましょう。
傷病手当金の受給額が概算で月20万円程度とすると、不足額が10万円となります。
なお、傷病手当金は最長1年6か月で終了します。その後も働けない状態が続く場合、家計への影響が深刻化する可能性があることを想定しておきたいものです。
自営業の場合は不足額がさらに大きくなる
自営業者の場合は、注意が必要です。
例えば、毎月の生活費が25万円である場合でも、公的給付がほとんどないことをふまえると不足額はそのまま25万円となります。
さらに、働けない場合でも、店舗(事務所)家賃やリース代、通信費、事業用ローンなど事業継続費用が発生するケースもあります。そのため、自営業・フリーランスの場合は、生活費だけでなく、事業固定費を加味して考える必要があります。
就業不能保険の給付金月額はいくらに設定する?
「就業不能保険」の給付金月額は、「不足額を補う」という考え方が基本です。
会社員の場合の目安と設定のポイント
会社員の場合、傷病手当金があるため、必要な生活費のすべてを保険でカバーする必要はありません。考え方としては、日常の生活費から傷病手当金や配偶者収入、貯蓄額等を踏まえ、不足する部分を補う形で設定します。
例えば、手取り月収30万円の会社員の場合
- 現在の生活費27万円(住居費含む、貯蓄含まず)
- 働けなくなった場合に想定する生活費24万円(現在の生活費の9割程度)を想定
- 傷病手当金 20万円(概算)
この場合、不足する4万円を給付額月額と設定することで備えを確保できる計算です。
ただし、上記はあくまでも考え方の一例です。同じ手取り月収でも、将来の教育費など支出が増えることを想定する場合や傷病手当金の給付終了後も余裕をもって備えたいという方であれば、月額10万円と保障を厚めに設定にすることも有効な選択肢です。
自営業・フリーランスの場合の目安と設定のポイント
自営業者・フリーランスの場合は、仕事を休むことで売上が止まりやすく、また、公的保障が薄いことをふまえると、会社員よりも高めの設定を検討するケースが多くなります。
例えば、生活費25万円および事業固定費10万円とすると、合計35万円程度の保障が必要になる可能性があります。
ただし、保険ですべてを賄おうとすると保険料も高額になります。そのため、日ごろからの生活防衛資金の見直しや資産形成など複数の方法で備えることの重要性が高いと言えます。
備えておきたい働けなくなったときのリスク対策
世帯の収入を支えている人が働けない場合には、家計への影響は大きく、とくに教育費や住宅ローンを抱える世代では、働けなくなることがそのまま家計危機につながるケースもあります。
就業不能保険を考える際、給付金額は「毎月いくら不足するのか」という視点がポイントです。まずは、毎月の生活費を把握し、公的保障の適用要件、貯蓄や家族の収入について整理してみましょう。そのうえで、自分にとって必要な保障額を検討しましょう。ただし、最終的には、保障内容と保険料のバランスで判断することをおすすめします。
病気やけがはもちろん、近年ではメンタル不調による長期休職も増えています。保険会社により、また保険商品により内容も多様化しており、毎月の給付金に加えて、一時金を受け取れるタイプや、精神疾患による長期休職に対応する商品などさまざまです。保障内容により保険料に幅があることも事実です。
当然ながら、手厚い保障への備えは安心ですが、保険料の経済的負担が家計を圧迫する可能性があります。給付対象となる条件や支払期間、免責期間は商品によって異なるため、「いくら受け取れるか」だけでなく、「どのような状態で給付されるか」を不安の度合いにあわせて確認することも大切です。
健康で毎日を過ごすことができれば何よりですが、誰にとっても、病気やけがのリスクはゼロではありません。保険は、そういったときに家計への影響を軽減する大切な役割を果たしてくれます。だからこそ、加入することが目的ではなく、もしもの場合でも安心できる体制づくりを納得したうえで確保したいですね。
就業不能保険に関するよくある質問
就業不能保険は収入保障保険と何が違いますか?
混同しがちな保険商品の名称として「収入保障保険」があります。
「就業不能保険」は、病気やけがで働けなくなったときに給付金を受け取る保険です。一方で、「収入保障保険」は、主に死亡や高度障害状態になった場合に、遺族が年金形式で保険金を受け取ることのできる生命保険です。
どちらも毎月受け取るタイプですが、「働けないときの保障」なのか、「死亡後の遺族保障」なのかという点が大きく異なります。
働けなくなったとき、公的保障だけでは生活費はまかなえませんか?
会社員の場合は傷病手当金がありますが、支給額は給与の約3分の2程度です。また、支給期間にも限度があります。とくに住宅ローンや教育費の負担が大きい世帯では、働けなくなったときに不足が生じる可能性が高いと言えるでしょう。また、自営業やフリーランスは公的保障が薄いため注意が必要です。生活費や固定費を踏まえ、自分に必要な備えを確認しておきましょう。
自営業の場合、就業不能保険にいくら加入すればよいですか?
自営業の場合は、生活費に加え、事業固定費も考慮する必要があります。例えば、生活費25万円、事業固定費10万円なら、月35万円程度を目安に考える方法があります。
ただし、保険だけで備えると保険料負担が重くなるため、生活防衛資金や固定費削減と組み合わせて考えることが大切です。
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執筆者プロフィール
大竹 麻佐子(おおたけ まさこ)
ゆめプランニング代表
CFP(R)認定者、相続診断士、J-FLEC(金融経済教育推進機構)認定アドバイザー、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
証券会社・銀行・保険会社など金融機関での勤務を経て、2015年ゆめプランニング開業。
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