4人に1人は治療に1ヶ月以上を要する 消費者安全調査委員会がパーソナルトレーニングによる負傷事故の実態と要因を公表

八木 敏弘
トータル・ライフ・コンサルタント、トータル・ライフ・コンサルタント(生命保険協会認定FP) >プロフィールを見る
2026年5月27日、消費者庁の消費者安全調査委員会(以下「消費者事故調」)は、個別の運動指導を受ける「パーソナルトレーニング」における事故の調査報告書を公表しました。近年、健康増進やダイエットを目的とした利用者が増加する一方で、指導中の骨折や靱帯損傷といった負傷事故の登録件数も増加傾向にあります。
ニュースのポイント
- 2019年〜2025年の7年間でパーソナルトレーニング中の事故が196件確認され、増加傾向にある
- 負傷した4人に1人以上が1か月以上の治療を要している
- トレーナーの知識・経験不足や、消費者が相談しづらい環境などが事故の要因と指摘
パーソナルトレーニングにおける負傷事故の実態と要因
消費者安全調査委員会の調査により、事故の発生件数、負傷の程度、および主な発生要因に関するデータが示されています。
負傷事故の件数
消費者事故調の調査報告書によると、2019年1月から2025年12月までの7年間で、事故情報データバンク(事故DB)に登録されたパーソナルトレーニングにおける事故は196件でした。2022年以降は毎年30件以上が登録されており、2025年に登録された事故は44件と、増加傾向が続いています。
事故DBに登録された事故件数の推移
| 件数 | |
|---|---|
| 2019年 | 14 |
| 2020年 | 22 |
| 2021年 | 19 |
| 2022年 | 30 |
| 2023年 | 36 |
| 2024年 | 31 |
| 2025年 | 44 |
出典:消費者安全調査委員会「消費者事故等調査報告書 パーソナルトレーニングにおける事故」P10
主な負傷部位と治療期間の割合
傷病の程度として、治療に1か月以上を要する傷病が最も多く(196件中81件、約41%)、けがの部位は腰・股関節(59件、約30%)、膝・足(下半身)(44件、約22%)の順に多くなっています。
治療に1か月以上を要する事例が4割をこえており、単なる軽傷にとどまらない深刻な負傷が多いことを示しています。
事故が発生する主な要因
アンケート調査に基づき消費者事故調は、以下の4点が事業者および資格認定団体の枠を超えて十分に整理・共有されていないことが、事故の主な要因であるとの見解を示しています。
- 目的やリスク、運動経験が多様な対象に対し、個別に適切な運動種目・回数を策定することや、不適切さを察知して運動を修正・中止すること等に関するトレーナーの知識・技術・経験
- トレーナーの確認漏れ・危険性の過小評価等ヒューマンエラーを防止するための手順
- 消費者が申告・中止等の行動を行いやすくするための環境作りの手順
- これらを踏まえたトレーナーの育成・管理
トレーナー582名に対するアンケート調査では、例えば『パーソナルトレーニングに関する業務フローやマニュアルの有無』という設問では、128名が「ない」と回答しました。また『事故が発生した際の業務フローの有無』については、71名が「業務フロー(手順書)はない」と回答しています。
一方、消費者1,336名に対するアンケート調査によると、例えば『パーソナルトレーナーからの動作や負荷の指示が無理だと感じることがある』という設問では、61名が「頻繁にある」、367名が「たまにある」という結果が得られました。この計428名のうち、70名が「がまんしてトレーニングを続けた」と答えています。
再発防止策
消費者事故調は、トレーナー・消費者の両方に対して再発防止策を示しています。
トレーナーに向けた基準の策定やトレーナーの育成・管理の見直し・普及などをすること。加えて消費者に情報提供をし、消費者がトレーナーに確認や伝えることなどが必要と述べています。
消費者事故調による再発防止策
| 安全確保に向けた仕組みの創設 | トレーナー向け基準の策定 a.トレーナーに共通して求められる知識・技術・経験 b.確認漏れ、危険性の過小評価等ヒューマンエラーを防止するための手順など c.消費者が申告・中止等の行動を行いやすくするための環境作りの手順など |
|---|---|
| トレーナーの育成・管理の見直し・普及 | |
| 事業者横断的な事故情報の収集 | |
| トレーナー側が直ちに行うべき対応の周知 |
消費者の申告があった場合の適切な対応 不安、違和感等の訴えがあった場合、安全を最優先とした対応 |
|
トレーニング初期段階における慎重な対応 初回から数回目は、十分な説明、低い強度の運動から始め、正しいフォームの習得や負荷に慣れることを目的とした指導・助言など |
|
| 消費者に対する情報提供 | 無理のない低めの負荷から始める、継続して行う運動が、長期的にみると安全で効果的であること |
| 気になることを伝えること(過去のケガや骨折、いつもと違うこと) | |
| 疲労や痛みの伝え方を確認すること | |
| 不安が残る運動はいったん止めること |
出典:消費者安全調査委員会「消費者事故等調査報告書 パーソナルトレーニングにおける事故【概要】」P6
民間保険によるけが・事故への備え
消費者が加入する保険(医療保険・傷害保険)による保障(補償)
パーソナルトレーニング中の負傷は、既存の保険で対応できる場合があります。
医療保険は、骨折や靱帯損傷などで入院・手術が必要になった場合の入院給付金や手術給付金の支払い対象となる可能性があります。腰椎の圧迫骨折など治療が長期化するけがの場合、入院日数に応じた保障が家計の支えになり得ます。
傷害保険(損害保険)は、急激・偶然・外来の事故によるけがを広く対象としており、パーソナルトレーニング中の負傷はこの「偶然の事故」に該当する可能性があります。日常生活全般のけがを対象とするタイプであれば、骨折・筋損傷・脱臼などに対して入院・通院・後遺障害の各給付が受けられる可能性があります。ただし保険によっては「スポーツ中の事故」や「自己の故意または重大な過失による事故」の取り扱いが異なる場合があるため、ご自身が加入されている傷害保険の約款や補償範囲を事前に確認することが重要です。
トレーナー・ジム側が加入する保険(賠償責任保険)による補償
指導者やジム側の対策としては、施設賠償責任保険の活用が考えられます。施設の管理・運営上の不備やトレーニング指導中のミスによって利用者がけがをした場合、法律上の損害賠償責任を補償する保険です。賠償責任保険のため、指導内容などに過失責任があることが要件となります。また、利用者から預かった荷物や器具が損傷・紛失した場合には受託者賠償責任保険が補償する可能性があります。
利用者側からすると、トラブル発生時にジムやトレーナーが適切な賠償責任保険に加入しているかどうかを、契約前に確認しておくことも一つの備えといえます。
消費者安全調査委員会
消費者の生命・身体に関わる事故の原因を究明し、被害の発生・拡大を防ぐために、消費者安全法に基づき2012年10月に消費者庁に設置された委員会です。消費者事故について調査を行い、その結果をもとに関係行政機関へ再発防止のための意見・勧告を行う役割を担っています。調査報告書は内閣総理大臣に提出・公表されます。消費者安全確保の見地から、事故に関する情報をまとめたレポートを掲載し、消費者に向けて情報提供をしています。
出典:消費者安全調査委員会「消費者事故等調査報告書 パーソナルトレーニングにおける事故」
出典:消費者庁「消費者安全調査委員会」
この保険ニュースの解説者
八木 敏弘(やぎ としひろ)
Sasuke Financial Lab 株式会社
トータル・ライフ・コンサルタント(生命保険協会認定FP)





















