仕事をして家計を支えている人にとって、病気になったときのダメージは治療費だけではありません。仕事を休むことで収入が下がる心配もあるでしょう。

では、もし自分ががんにかかったら、今の仕事はどうなるのでしょうか?安心して治療を受け続けるために、なにより自分や家族の生活のために、がんを治療しながら仕事を続けたいと考える人が多いでしょう。

しかし、副作用が生じたり、長期間にわたることも多いがんの治療を受けながら、これまでどおりに仕事を続けることは本当にできるのでしょうか?

がんにより退職率は低い?

医療の発達によって、がんは必ずしも死に至る病ではなくなってきています。がんの死亡率は減少傾向にあり※1、入院期間も短くなってきています。厚生労働省の「患者調査」※2によると、平成8年に平均46日だったがんの入院日数は平成29年には約17日と、半分以下になりました。

これは通院でできるがんの治療が普及してきていることが考えられます。このため、働きながらがんを治療することも不可能ではなくなってきているのです。

がんの入院日数
厚生労働省の「患者調査」のグラフ

厚生労働省の「患者調査」のグラフ

※出典:厚生労働省「患者調査(平成29年)」より作成

治療と仕事の両立には職場の環境づくりが重要

しかし、働き続けるための制度や周囲の理解は必ずしも十分とはいえず、がん治療と仕事の両立には多くの課題があるのも実情のようです。

内閣府による「がん対策に関する世論調査」(平成26年)※3によると、「がんの治療(2週間に1度程度の通院)をしながら働き続けられる」環境であるかどうかという問いに対し、「そう(働き続けられると)思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人は約3割にとどまっています。

「そう(働き続けられると)思わない」「どちらかといえばそう思わない」と答えた人にその理由を尋ねると、「代わりに仕事をする人がいない、いても頼みにくい」「職場が休むことを許してくれるかどうかわからない」などの回答が挙げられました。

職場の制度だけでなく、周囲の理解や協力が十分でないと、がん治療と仕事を両立するのは簡単ではないのかもしれません。

がん闘病を支える企業の取り組み・公的な支援制度

では、がんにかかっても仕事を続けたいときにはどうすればよいのでしょうか?

現在は残念ながら、がん治療のために法律で企業に対して義務付けられた休職制度はありません。しかし、近年は従業員ががんにかかるケースが企業でも珍しくなく、独自の休職制度や両立支援体制を整えている企業もあります。

職場の就業規則で、利用できる制度を確認

いざ自分ががんにかかったら、治療で長期間休んだときに仕事がどうなるか、有給休暇以外にも傷病休暇や療養休暇が取れるのかが気になるところでしょう。まずはお勤め先の就業規則などを確認して、利用できる制度があるかを確認してはいかがでしょうか。

就業規則を読んだだけではわかりにくいこともあるでしょうし、治療をして会社を休んでいれば容易に確認できないかもしれません。人事部や総務部、健康保険組合に問い合わせてみてもよいでしょう。

国や自治体の両立支援制度

近年は、従業員のがんと仕事の両立に取り組む企業を、国や自治体が支援する動きもあります。

厚生労働省は平成28年に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」※4を策定しました。ここでは、がんを含め病気にかかった従業員が、仕事との両立について相談できる窓口・制度を社内に設置することや、治療のための休職や短時間勤務・在宅勤務制度を導入することなど、従業員の治療と仕事を両立するために、企業ができる具体策を解説しています。

また、東京都など一部の自治体ではがんや難病の治療と仕事の両立をする従業員を採用したときや復職させたとき、休職制度を整備したときなどに、企業に助成金を支給しています。

これらは企業向けのものですが、がんと仕事の両立について、一般的にはどのようなことが推奨されているかを知るきっかけになりそうです。自分の勤務先でまだ両立を支援する制度がないときには、具体策や助成金のことを勤務先に紹介して、導入を検討してもらうこともできるかもしれません。

転職・再就職の際には専門の相談員に相談を

とはいえ、実際に自分ががんにかかったら、心身ともに大きな負担を感じる人が少なくないのではないでしょうか。さまざまな事情で治療と仕事の両立が叶わずに、やむをえず退職することもあるでしょう。

でも、あきらめる必要はありません。全国のハローワークやがん診療拠点病院では、再就職したいと思っている人や、現在の職場ではがんの治療と仕事の両立が難しいため、別の職場で働きたいと考えている人をサポートしています。「長期療養者就職支援事業」※5という制度で、がんに限らず長期療養が必要な病気の患者の就職を支援するサービスです。

ここでは、専門の相談員ががんの治療と仕事の両立について相談にのってくれます。治療状況や働き方の希望などに合わせて就職の相談をしたり、職業紹介をしてくれたりするようです。就職後には、治療しながら長く働けるように支援を受けることもできるようです。

仕事だけでなく生活やお金に関する相談ができるところも

また、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」「がんの相談窓口」も活用できます。

専門の相談員や認定看護師、医療ソーシャルワーカーが、がんの治療や費用、活用できる制度やサービスなどについて相談に対応しています。仕事のことだけでなく、がんの治療方針や計画をよく知りたい、副作用や合併症とどう付き合って生活するか知りたい、職場の人など周囲に治療のことをどのように説明すればよいか知りたいといった疑問や悩みも相談できます。

外来や入院で接する医師や看護師には、がんや治療に直接かかわることでないと相談しづらいもの。でも、がんと付き合いながら仕事を続ける、生活をして家計をやりくりするうえで心配なことはさまざまあるでしょう。がん相談支援センター・がんの相談窓口では、そうした不安に対処する糸口が見つかるかもしれません。その病院に入院・通院していない人でも利用できることがありますよ。

がん闘病による収入減には保険でもカバーできる

がんと付き合いながら仕事を続けようと思っても、治療の状況や職場の状況によっては希望通りに続けられないことがあるかもしれません。休職や退職、転職や職場での配置転換をすれば、収入が減ってしまうおそれもあります。治療費の出費に加えてこうした経済的なダメージがあると、その後の生活のお金に不安を感じそうです。

そこで、治療中の出費や収入減を補てんする方法として、保険を活用できます。

医療保険・がん保険

このうち医療保険やがん保険は、入院や通院、手術をしたときに給付金を受け取れます。がん保険では、がんと診断された時点で診断給付金を一時金で受け取れるものが多く販売されていますし、医療保険の一部でも、オプションをつけることで同様の保障を備えることができます。

診断給付金で受け取ったお金の使い道は自由に決められます。治療費だけでなく、収入減のカバーにあててもよいですね。

また一部のがん保険は、働きながら治療を続けることを想定して、がんと診断された後に生存していると所定の期間にわたって給付金を受け取れるものがあります。治療しながら働いていると、休暇を取ったり時短勤務をしたりで収入が下がることがありますが、こうした保険でその補てんに役立てられそうです。

就業不能保険

がんを含めて病気やケガなどで働けなくなったときに給付金を受け取れる「就業不能保険」もあります。入院や自宅療養などで働けない状態と判断されると、保険がおります。がんの治療のために休職したときには、公的な健康保険の傷病手当金を受け取れることがありますが、その上乗せとして活用できます。

がんの治療と仕事の両立は不可能ではない

このように、がんの治療と仕事の両立をサポートするしくみは複数あります。重症度にはよるものの、がんにかかっても仕事を続けることは必ずしも不可能ではありません。まずは勤務先に制度があれば利用を検討してはいかがでしょうか。

近年は国や自治体の支援体制も徐々に充実してきています。病院やハローワークなどの相談窓口では、さまざまなサポートを受けることも可能です。

ただ、実際にがんの治療をしながら仕事をするのは、心身、そして経済的な負担がゼロとはいえないでしょう。いざというときに安心して治療に臨むゆとりをもつうえで、保険を検討しておいてもよいかもしれませんね。

がん保険

就業不能保険

※1 出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」「人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2017年)
※2 出典:厚生労働省「患者調査(平成29年)」

※3 出典:内閣府「平成26年度 がん対策に関する世論調査」
※4 出典:厚生労働省「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(平成28年)」
※5 出典:厚生労働省「長期療養者就職支援事業」

  • 監修者プロフィール

    ファイナンシャルプランナー 加藤 梨里

    加藤 梨里(かとう りり)

    マネーステップオフィス株式会社代表取締役
    CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
    マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。