出産にかかるお金・保険は必要?

就職や結婚、住宅の購入など、長い人生のなかではいろいろな転機を迎えることがあります。女性なら妊娠・出産を経験する人もいるでしょう。

これらのライフイベントでは、それまでとは生活スタイルが大きく変わったり、まとまった支出がかかったりすることがあります。お金の変化には計画的に備えておくと安心ですよね。

赤ちゃんを迎える喜びはほかに代えがたいもの。それと同時に、出産は赤ちゃんにもママにも、ときに命の危険を伴う一大イベントでもありますから、体調の変化や入院中の生活に不安を抱えることも珍しくありません。

また、小さな命を迎える際、出産や入院でかかるお金もしっかり用意しておきたいところです。

そこでここでは、出産でかかるお金と保険について知っておきましょう。

出産でかかるお金 自己負担はどれくらい?

十月十日(とつきとおか)の妊娠期間を経ると、いよいよ赤ちゃんとご対面です。赤ちゃんもママも安全に臨むうえでは、助産院や病院で、助産師や医師の専門的なサポートを受けながら出産するのが一般的です。

出産費は原則10割負担

このため、出産(分娩)には費用がかかります。公的な保険の対象外のため、費用は医療機関が自由に定めています。国民健康保険中央会※1のまとめによると、出産時に負担する費用は平均で約50万円。一般的には、助産院は病院や診療所に比べて費用が少し低めの傾向があるようです。

この金額には、分娩費用のほか6~7日間程度の入院費、赤ちゃんの健康状態を管理する新生児管理保育料、薬や検査代などが含まれます。

正常分娩でかかるこれらの費用はいずれも公的な保険がきかず、すべて自己負担です。

帝王切開は3割負担

一方で、出産時にトラブルに見舞われて治療や医療的な措置が必要になった場合には、公的な保険がききます。

たとえば難産のときなどに出産の状況をみて、赤ちゃんとママの安全のために帝王切開や鉗子分娩、吸引分娩を行った場合や、分娩の合併症が出た場合などです。病気の治療のように、公的な医療保険の対象として自己負担は3割になります。

差額ベッド代

費用のほかに、別途お金がかかることもあります。
入院時に個室・少人数の部屋を利用した場合には、差額ベッド代がかかります。大部屋が空いていないなど医療機関側の都合で個室に入ったときを除き、差額ベッド代は全額自己負担です。

費用は病院によって異なり、1日あたり数千円から数万円と幅があります。

入院に必要なパジャマや日用品など

出産時には産褥用の下着、出産後には授乳しやすいパジャマが必要です。入院前に産科の病院や助産院から案内されますが、特に初めての出産のときには新たに買う人が多いでしょう。出産時には数日から1週間程度入院しますから、洗面用品などの日用品を買い足すこともあるかもしれません。

ものによって料金はまちまちですが、必要なものをすべて新たにそろえると数千円程度はかかりそうです。ただ、入院先の病院が必要なものを一式支給するところもあります。

赤ちゃん用品

出産後に自宅に戻ると赤ちゃんとの生活が始まります。赤ちゃんの肌着や洋服は、入院中には病院・助産院のものを着せてもらえることが多いですが、退院する日には自前のものに着替えて帰ります。出産前に少し準備しておくと安心です。

自宅ではパジャマやおむつ、寝具やお風呂、沐浴剤、授乳グッズなども使うことが多いでしょう。帰宅したらすぐに使い始められるよう、退院前に揃えておきたいですね。ベビーベッドなど、ベビー用のものを新たに準備すると、数千円から数万円単位のまとまったお金がかかるものもあります。

これらのベビー用品の費用は自己負担する必要がありますが、すべてをまとめて一式で購入すると10万円以上になることがあります。ただ、生後1カ月で1カ月健診を受けるまではお家の中で過ごすことが一般的ですから、ベビーカーや抱っこひもは必ずしも早めに買う必要はありません。ベビーチェアやベビーシューズも、おすわりやあんよができる月齢になってからでも十分に間に合います。

一部の自治体では、赤ちゃんが生まれた世帯にお祝い品としてベビー服などを贈ったり、ベビー用品の購入やベビーシッターの利用などに使える支援券を配布しているところがあります。また、ベビー用品を使う時期は限られているため、レンタルやフリマアプリのリサイクル用品を活用することで出費を抑えることもできるのではないでしょうか。

出産で受け取れる公的なお金と制度

出産でかかる負担を軽減するためには、一部で公的な補助制度があります。

出産育児一時金は子ども1人あたり42万円

分娩費用の負担を軽減するのが、「出産育児一時金」です。加入している健康保険から子ども1人あたり42万円支給されるものです。会社員や公務員の人は勤務先の健康保険へ、自営業の人はお住まいの地域の国民健康保険へ申請して受け取ります。

基本的には、出産した医療機関には請求額を自分で支払い、健康保険へ別途請求をして受け取るしくみですが、「直接支払制度」というものもあります。

直接支払制度は、健康保険から出産した医療機関へ出産育児一時金42万円を直接支給してもらい、出産時に医療機関から請求される費用を精算する方法です。出産時に窓口で支払うのは請求額から42万円を差し引かれた後の金額になりますので、退院時に用意するお金が少なく済みます。
関連記事:【FPが解説】出産で医療保険はおりる?給付のしくみと注意点まとめ

医療費控除で自己負担の一部が戻る

出産で自己負担したお金の一部は、確定申告をすることで戻ってくることがあります。所得税の医療費控除では、出産のためにかかった費用をその年の所得から差し引いて税額を計算できます。

対象になるのは、病院などに支払った分娩費用や入院中に病院で出された食事代、出産で入院するときに乗った電車、バス、タクシー代などです。分娩費用については上記の「出産育児一時金」の42万円を差し引いた残額の自己負担分を、医療費控除額に含めることができます。

医療費控除は出産にかかわる費用だけでなく、病気やケガで治療を受けたときに支払った自己負担も対象になりますから、それらと合わせて確定申告します。

なお、医療費控除の詳しい説明はこちらの記事をご参照ください。
関連記事:医療費控除とは。申請方法をお金の専門家が分かりやすく解説します

会社員・公務員には出産手当金も

出産前に働いていて産休(産前産後休業)を取る人は、出産手当金を受け取れます。

会社員・公務員で健康保険に加入している人が対象で、出産のために仕事を休んでお給料が出なかったとき、1日につきお給料の日額の3分の2相当の手当金を受け取れます。

受け取れるのは出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、仕事を休んだ日数分です。

産休は、勤務先で無休扱いになりお給料がストップしてしまうことが多いですが、出産手当を受け取ることで、3分の2の収入は確保できるようになっています。

出産に民間の医療保険は使える?必要?

このように、出産ではまとまったお金がかかりますが、出産そのものにかかる費用は出産育児一時金から、産休によって収入が下がる分は出産手当金で一部を補てんすることができます。公的な給付から、ある程度の負担は軽減できそうです。

では、民間の医療保険は出産の時に使えるのでしょうか?

自然分娩は医療保険の対象外

一般的に、出産は病気やケガではないため原則として民間の医療保険の対象にはなりません。赤ちゃんとママの経過に問題がない自然分娩なら、一部例外の商品を除き、出産後に入院をしても医療保険の給付金は受けとれません。

帝王切開は医療保険の対象になる

しかし双子など多胎のときや逆子のときなど、医師によってリスクが高いと判断されて帝王切開で出産するケースでは、医療保険の手術給付金の対象になります。ほかにも鉗子分娩、吸引分娩などの措置が取られるときや、合併症を起こしているなどで入院するときは入院給付金や手術給付金の対象になります。

上記は公的な医療保険の対象として医療費の負担は3割とされることが多いですが、民間の医療保険は自己負担割合にかかわらず、保険会社所定の入院や手術に該当すると給付金を受け取れます。出産にかかわるトラブルに備えるなら、医療費の負担を抑えるために活用できそうです。

出産前後は医療保険に入れないことも

なお、一部を除き多くの医療保険は契約時に行う健康告知で、妊娠をしているか、出産経験があればその時に異常がなかったかを問われます。何らかのトラブルを経験していたことがあれば、出産直後や次の妊娠をしている間には保険に加入できないか、加入できるのは条件付きの契約のみになることがあります。

条件付きの場合には、通常の病気やケガは保障するものの、妊娠・出産にかかわるトラブルや子宮に関連する病気は保障の対象外とされることがあります。

トラブルなく自然分娩で赤ちゃんを産むケースでは民間の医療保険を使う場面はほとんどありませんから、出産のためだけに必ず医療保険が必要とはいえないでしょう。出産をきっかけに、必ず急いで医療保険を検討すべきとも言い切れません。

一方で、もし2人目以降の出産時のトラブルに備えたいなど、先のリスクを考慮するなら、1人目の出産から時間をおいて検討してみてもよいでしょう。

いずれにしても、子どもが生まれた後や子育て中は忙しく、ご自身のお金や保険のことが後回しになることがあります。入院のリスクやかかるお金について考えるきっかけになるとよいですね。

妊娠中から出産まで使用できる医療制度・医療保険の例

※はみ出ている場合、横にスクロールできます。

公的医療制度(健康保険、
国民健康保険など)
公的制度(自治体独自の
補助など)
民間の
医療保険
自然分娩の
分娩費用
*1 *2 *3
帝王切開など
の手術費用
×
出産に関わる
トラブルの
治療費用
×
入院中の
パジャマ・
日用品
× × ×
赤ちゃん用品
の費用
× *2 ×
*1 原則全額自己負担だが、健康保険から42万円の出産育児一時金が出る
*2 地域により一部補助や現物支給があるところもある
*3 原則給付金の対象外だが、一部の保険では給付の対象になる

出産にかかるお金をあらかじめ知って、早めの準備を

赤ちゃんを迎えるときには身体的な負担がかかると同時に、それまでの生活とはまったく異なるお金がかかります。

いつ、どんなお金がかかるか、またどんなリスクがあるかをあらかじめ知って、安心して過ごしたいものですね。

※1 出典:公益社団法人 国民健康保険中央会「出産費用 平成28年度」

参考:厚生労働省「出産育児一時金の見直しについて」
参考:国税庁「No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例」
参考:協会けんぽ「出産で会社を休んだとき」

  • 執筆者プロフィール

    ファイナンシャルプランナー 加藤 梨里

    加藤 梨里(かとう りり)

    マネーステップオフィス株式会社代表取締役
    CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー
    マネーに関する相談、セミナー講師や雑誌取材、執筆を中心に活動。保険、ライフプラン、節約、資産運用などを専門としている。2014年度、日本FP協会でくらしとお金の相談窓口であるFP広報センターにて相談員を務める。