

不妊治療の保険適用が拡大へ?政府が検討へ|ライフィ保険ニュース解説
加藤 梨里
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー >プロフィールを見る

今月、自民党総裁選を経て内閣総理大臣に就任した菅義偉首相が、総裁選挙にあたり不妊治療の保険適用の拡大を打ち出し、注目を集めています。
現在、不妊治療は一部に限り健康保険が適用されますが、自己負担の重い治療へも対象が拡大されれば、出産を望む夫婦への支援になりそうです。
不妊治療の費用の負担軽減と合わせて、FPが解説します。
ニュースのポイント
- 政府が不妊治療の公的保険の適用対象拡大を検討へ
- 保険がきく不妊治療は、現在は一部のみ
- 自治体から補助が出る地域もある
不妊治療への保険適用拡大を政府が検討へ
2020年9月に内閣総理大臣に就任した菅義偉首相が、不妊治療への保険適用を実現し、出産を希望する世帯を支援する方針を示しました。
かねてから少子化対策の一環として政府が検討してきたもので、今後、対象になる治療の範囲などを精査していく見込みです。
現在、保険がきく不妊治療は一部の検査や排卵誘発などに限られる
近年、子どもを望み、授かるために不妊治療をする夫婦は増えています。厚生労働省※1のまとめによると、不妊治療のひとつである体外受精と顕微授精で生まれた赤ちゃんは、2006年度には全体の約1.8%だったのに対し、2014年度には4.7%と年々増加しています。
しかし不妊治療にかかる費用は少なくありません。公的な保険が適用されるのは不妊検査の一部や、排卵誘発剤などの薬による治療に限られており、人工授精や体外受精、顕微授精は保険がききません。厚生労働省※1によると、費用の全額が自己負担になる不妊治療では、人工授精では1回につき1万円から3万円、体外受精や顕微授精では1回20万円から70万円かかるケースもあるようです。
こうした負担感から妊娠を諦めるケースが少なくないことから、不妊治療を広く公的な保険の対象とすることで、子どもを授かりたい世帯の支援につなげる方向です。
体外受精、顕微授精には補助が出る自治体も
不妊治療のなかでも特に費用が高額な体外受精や顕微授精には、都道府県や市町村が補助をしているところがあります。
「特定不妊治療」と呼ばれるこれらの治療を受け、要件に該当する場合にお金が補助されます。全国の都道府県では、妻が43歳未満の夫婦が体外受精や顕微授精をする際に、最大30万円の補助をしています。
地域により対象の拡大や上乗せの補助をするところも
補助を受ける細かな条件は地域により異なることがあります。
たとえば東京都の場合は、通常は夫婦合算で730万円未満とされている所得制限を、2019年4月以降の治療からは905万円未満としています。妻の年齢が39歳までなら通算6回、40歳以上(かつ43歳になるまで)なら通算3回まで、治療の内容に応じて1回につき最大30万円の助成が受けられます(年齢は初めて補助を受けるときの治療開始時点で判定)。
また埼玉県など、2人目の子どもを授かるために不妊治療を受ける人を対象に、回数の上限を拡大している地域もあります。
都道府県の補助の上乗せとして、別途で助成をする市区町村もあります。
東京都内の複数の市区町村では、東京都から受けた補助を超える費用がかかったときに補助を受けられるところがあります。受けられる補助額は、1回あたり5万円まで、1年間に10万円までなど、地域によって異なります。
菅首相は、不妊治療の保険適用拡大が実現するまでには2年程度の準備期間が必要との見方を示しており、直近では地域の助成制度を拡充することも視野に入れているとのことです。
不妊治療の保険適用とは?
妊娠を希望する人が受ける不妊治療のうち、現在、公的な保険がきくのはタイミング指導や黄体ホルモンの補充療法、無排卵など排卵に障害がある場合に行う薬の内服や注射、男性不妊の場合の漢方薬や無精子症への手術などに限られています。人工授精(精子を子宮内に注入する方法)や体外受精(卵巣から卵子を取り出して培養器で精子と受精させる方法)、顕微授精(卵子の中に精子を注入する方法)は保険の適用外で、費用は全額が自己負担になります。政府は、これらを保険適用に加えることを検討しています。
なお、民間の生命保険の一部には、これらの不妊治療を受けたときに給付金を受け取れるものがあります。
参考:東京都「東京都特定不妊治療費助成の概要」
参考:埼玉県「埼玉県不妊治療費助成事業のご案内」
この保険ニュースの解説者
加藤 梨里(かとう りり)
マネーステップオフィス株式会社代表取締役
CFP(R)認定者、金融知力インストラクター、健康経営エキスパートアドバイザー